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2007年12月21日 (金)

全国図書館大会に参加して

 最近、「未来をつくる図書館 ニューヨークからの報告」(菅谷明子著、岩波新書)を読み、図書館というものに対する認識(素晴らしさや可能性)が劇的に変わりました(まさに「目から鱗が落ちる思い」)。このような図書館は国内にはないものかと思っていたら、浦安市の図書館が極めて先進的で意欲的であることが分かりました。適当な本を探し出し、「浦安図書館でできること 図書館アイデンティティ」(常世田良著、勁草書房)を読み、今度は浦安市立図書館の素晴らしさに感激しました。市民の自律的な活動や情報提供を推進するには「図書館政策」が極めて重要だという認識を強くしました。さらに何かいい情報がないかと探していたら、「全国図書館大会」というイベントがあり、今年は東京で開催されるということを発見しました。この大会、第1回はなんと1908年に開催されており、それから丁度100年目、戦時中の中断はありますが、今年が第93回という非常に歴史と伝統がある催し物です。これは図書館というものをもっと知るためにはまたとない機会だということで、思い切って参加費用7,000円を払って申し込みました。平日だったので仕事の都合で行けなくなったら痛いなあと懸念していましたが、幸いほぼ全て参加することができました。

 大会は初日に全体会、二日目に分科会という日程でした。登録した参加者数は1,529名という大規模なものでした。
 平成19年10月29日、全体会は日比谷公会堂で行われました。主催者や来賓が挨拶する開会式には間に合いませんでしたが、日本図書館協会理事長による基調講演と井上ひさし氏による記念講演を聞くことが出来ました。
 まずは、日本図書館協会塩見昇理事長による基調報告です。塩見昇氏は、大阪教育大学名誉教授で、学校図書館の研究の第一人者、だそうです。著書には「教育を変える学校図書館」「図書館の発展を求めて 塩見昇著作集」などがあります。講演のポイントは以下のとおりですが、役所に対する批判的な発言もあり、骨のあるお方と見受けました。
○教育基本法の「改正」と進行する教育制度改革
・教育内容への国の関与、教育行政の主導性を強化した新たな教育基本法が制定された。これは、図書館法制を支える中心的な基盤の改変である。
社会教育法図書館法への波及も出てくる。6月まら中教審生涯学習分科会制度問題小委員会で検討中。

○図書館設置基盤、母体の変容
・自治体の大合併が行われ、2006年4月現在で7年前の3,232団体が1,821団体に再編された。その結果、公立図書館設置状況は、市97.8%、町58.4%、村22.3%、全体で71.7%となった。しかし、これは見かけ上の数値アップであり、実質と乖離してしまっている。
・学校社会においても、大学の合併、短期大学の再編・廃校が進んでおり、実質的には後退となっている。

○管理運営、職員構成の多様化
指定管理者制度の導入状況:導入した自治体43、今年度中に導入予定16、来年度以降導入予定50、計109(→1,284自治体の1割未満)。初期の導入を継続すべきかどうか見直す時期を迎えるケースも出てくる。
・静岡市の導入計画は、いったん白紙になり、市教委が図書館協議会でなじまないという表明をした。
・埼玉県北本市議会では、導入中止を求める請願を採択し、市の導入計画を否決した。
・図書館友の会全国連絡会は、中央省庁や地方八団体に対して、
指定管理者制度は図書館の理念になじまず公立図書館に適用しないように求めることを含む要望活動を行った。
・山梨県知事選では、県立図書館の建替え方式が争点になり、PFI方式に否定的な候補が現職を破って当選した。

○IT化の進展と図書館
・国民のインターネット利用状況は、人口普及率が68.5%、利用人口は8,754万人に達する。
・総務省では、本年3月に「新電子自治体推進指針」を策定。
・総務省調査「電子自治体推進のための住民アンケート」において、図書館のオンライン貸出予約が最も高利用(57.4%)であることが明らかとなる。

○連携した図書館事業の推進と図書館ネットワーク
・大学図書館と地元公立図書館との連携が各地で盛んになってきており、石川県では、県立を要にした県内横断検索システムに大学も加わっている。
・鳥取県では、県立を中心に大学、市町村・県関係機関、学校などを網羅する配送システムを確立した。

○学校図書館
・平成19年度から「新学校図書館図書整備5ヵ年計画」が始動した。単年度200億、5ヵ年で1,000億と大幅増額になった。

 続いて、作家井上ひさし氏による記念講演「文化の力 図書館の力」です。井上ひさし氏の講演は散漫な雑談といった風でしたので、特に図書館にかかわりのある部分だけ紹介いたします。非常に濃密な図書館との関わりを持っていることに驚きました。
 上智大学に進学し、夏休みに帰省した際、母の知り合いに岩手県釜石市の図書館長がいて、アルバイトをさせてもらった。遠野市に重要な本を疎開させていたが、それを戻す仕事だった。その仕事をしながら和書300冊を全部読んだ。
 自分は本に線をひくくせがある(注:この点は村主と一緒)ので、自分で本を集めないといけない。ある日、本の重みで家の床が抜けてしまった。その大量の本をどうしようかと思ったが、当時、各地に農村生活改善センターが作られており、そこに13万冊の本を寄贈することにして、農村青年が司書の勉強をしてセンターの2階を図書館にした(名称:遅筆堂文庫)。目的外使用だと怒られたが、どんどんやらせた。そのうち、ガットウルグアイラウンドで作られたもののうち面白い施設ベスト20に選ばれた。農村青年らに「図書館を作るなら、「人が集まるところ」として劇場も作ってくれ」と頼んだ。今も毎年5,000冊くらい寄贈しており、蔵書は20万冊になった。ちなみに、このために投じている私財は年間、古本で2,000万円、新刊本で700万円くらい。

 2日目は、場所を代々木の国立オリンピック記念青少年総合センターに移し、分科会が開催されました。分科会は全部で何と22もありました。当たり前ですが、どれか一つしか参加できないのです。何ともったいない!私は第1分科会公共図書館部会」に参加しました。テーマは「地域を支える情報拠点をつくろう」です。午前中は、地域の情報拠点として、これからの図書館をめざした改革に取り組む東京圏の公立図書館4館の事例発表、午後はそれを受けた形でのパネルディスカッションでした。

■事例発表1「人口10万合併都市の試み-埼玉県ふじみ野市の場合-」
ふじみ野市立大井図書館主任:松本芳樹氏
 発表した松本氏は、14年間上福岡図書館に勤務し、本年4月に大井図書館に異動したとのこと。ふじみ野市は、2005年に上福岡市と大井町が合併して誕生したましたが、旧2町にはそれぞれ図書館がありました。合併前から「相互利用協定」を締結していたので、合併に伴う利用者側の混乱はあまりありませんでした。規模には多少の差があるものの、並列館という位置づけなので、困難なこともあり、解決すべき課題に少しずつ取り組んでいる、という発表でした。発表の中で言及された以下の二つの報告は、どうも図書館関係者にとって非常に重要なもののようであり、要チェックだと思われました。
・「地域の情報ハブとしての図書館像:課題解決型の図書館を目指して」(2005年1月)
・「これからの図書館像:地域を支える情報拠点をめざして(報告)」(2006年3月

ちなみに、両者は略称で「2005年の図書館像」「これからの図書館像」と呼ばれているようです。

■事例発表2「我孫子市民図書館のきめ細やかなサービスと運営の工夫」
我孫子市民図書館館長:池田裕美氏
 我孫子市民図書館は、固定館が3館と移動図書館14ステーションで構成されています。蔵書数38万冊、利用者登録率45%、年間貸出数134万冊、市民一人当たり年間9.9冊の貸出です。
 我孫子地区館が開館した平成14年から始めた新規サービスも、平成18年度には郵送利用が年間50回、宅配サービスが年間301回にまで増えました。
 小中学校の児童生徒への情報発信のために、市内の全小学校の図書館の整備を手伝いました。本棚を先生が日曜大工で作ったり、校長がカーテンをどこからか調達してくるなど、最初の一歩を踏み出すと歯車が回り出していきました。子ども用の本の紹介をホームページで行いました。 図書館利用者に気持ちよく利用してもらえるよう、接遇に気を使い「感じのよい図書館員」を目指しました。バイト用語も禁止しました。大人向けのものもある「お話会」は、職員のスキルアップには効果がありました。
 人員削減されたので、有償ボランティア「市民スタッフ」を募集し、細やかなサービスの充実に努めました。我孫子市では平成18年度から「提案型公共サービス民営化制度」がスタートしました。図書館で採択された事業はまだありませんが、職員はよい刺激を受けているとのこと。
熱意と細やかな気配りに溢れる女性館長を中心に、熱心に取り組んでいる様子がうかがえました。
■事例発表3「横浜市立図書館の財源創出の取組-図書館の広告事業-」
横浜市中央図書館企画運営課調整係長:小野寺紀子氏
 横浜市の広告事業は、アントレプレナーシップ事業からスタートしました。アントレプレナーシップ事業とは、職員自ら提案した事業を、提案者が企画から事業化まで責任をもって推進する仕組みです。横浜市役所全体で、2007年度には、1億4,000万円の広告料収入、経費縮減約5,000万円という成果がありました。
 横浜市立図書館における広告事業の取組みとしては、図書館ホームページのバナー広告(2006年度の収入182万円)、図書貸出票・資料情報の用紙(感熱ロール紙)の裏面への広告掲載(用紙の寄付受け:これまでに120万円を節減)、紙芝居用貸出袋(あらかじめ広告を印刷した袋を企業から寄贈:約70万円の節減)、パンフレットラック(大学案内パンフレット等を配布するラックを設置し、設置料約130万円の収入)といった内容です。
 収入の金額的な成果だけでなく、広告事業を行うに当たり図書館の持つ資産を有効に活用する必要があるため、自らの特徴を客観的に捉え直す機会となったとか、職員に自ら財源を獲得しようという意識が醸成され、予算の有効活用という姿勢が生まれたといった「効果」もありました。

■事例発表4「千代田図書館と地域社会との連携~指定管理者制度による図書館経営~」
千代田区千代田図書館長:田中榮博氏
 新しい千代田図書館は、国と千代田区の庁舎を合築したユニークな事例である「九段第三合同庁舎」の9階、10階に入っており、私も竣工直前に行われた見学会に参加して以前に見ていました。標題にあるように「指定管理者制度」を導入しており、指定管理者は「ヴィアックス・SPSグループ」という民間企業です。この企業は「千代田ゲートウェイ」を主体とし、「区民の書斎」「創造と語らいのセカンドオフィス」「歴史探究のジャングル」「キッズセミナーフィールド」という計5つのコンセプトを提案して選定されました。特筆的なものとしては、国立情報学研究所の全面協力による「連想検索システム」、「図書館コンシェルジュの配置」「こどもひろばサービスの実施」「身障者向けの図書資料の宅配サービス」「無線LANサービス」などが挙げられます。また、今後は、「ディジタルコンテンツサービス」(インターネットから、利用者パソコンアクセスによる、デジタル化された図書資料の提供を行うサービス)を平成20年度から本格運用する予定とのこと。文句なしにわが国の最先端を走るモデル的な図書館であると言えましょう。ちなみに、ここの図書館は教育委員会ではなく区民生活部文化スポーツ課という区長部局が所管しているそうです

 午後はパネルディスカッションでした。パネリストは午前中に事例発表した4名で、慶應義塾大学文学部の田村俊作教授がコーディネーターを務めました。
 5つの事例の共通事項として挙げられるのは、自治体行政の変化に対応した、新しい制度導入の取組みや工夫です。田村教授は4つの切り口を提示しました。すなわち「地域の情報拠点となるためのサービス改革」「サービスを支える図書館運営の改革」「サービスを支える財源の改革」「図書館職員の意識改革」です。これらの改革の目標として「地域の情報拠点」を目指すこととしています。
 パネルディスカッションは、まず会場からの質問への応答から始まりました。
Q.学校図書館との関わりについて(我孫子市民図書館へ)
A.それは館員の長年の思いだった。頼まれもしないのに行けなかった。敷居が高いというのもあった。幸い「助けてほしい」とHELP信号が来たので「渡りに船」と入っていった。
Q.千代田図書館が教育委員会から区長直轄に変わった経緯は?
A.区の組織全体の見直しの一環として行われたもの
(コーディネーターから、田中氏は業務委託を受ける事業者の立場なので答えにくいし、ご存じでないのはやむを得ないと助け船を出しましたが、質問者は「非常に重要なポイントだ」と食い下がっていました)。
 続いて、「サービスの改革」:コンセプト、理念とその背景・理由について各パネリストが発言しました。
(ふじみ野)
 現在は直営だが、市の中では改革が議論されている。合併時に有利な方に合わせたことで、今アップアップしている。
 旧大井町役場は総合支所にしているが、危うい状態で、全庁的な課題になっている。
 図書館業務としては、貸出冊数だけでなく、もっとベーシックな指標を大切にしていくべきと考えている。例えば、相互貸借や障害者サービス(←これはあまり評価されない!)など。
(我孫子)
 目指すものは3つ。
①きめ細かいサービス~合併せず小さい自治体として生きていくことを選択した。市長からは「市民から鬱陶しがられるくらい親切にして下さい」と言われている。宅配サービス利用者にお知らせも併せて配る。館員の服装への細かい注文も。
②市民要望の徹底的な反映~カウンターにお客様ノートを置き、何か言われたらすぐ書き留めるようにしている。利用者懇談会やアンケートなども実施している。
待つサービスから打って出るサービスへ~学校への団体貸付け。まず学校図書室の整備に取り組んでおり、小学校は終了したので、現在、中学校に取組み中。学校に入らせてもらって有り難いと思っている。その他、保健センターでの読み聞かせを、ブックスタートの一つとして実施している。
(横浜)
 平成18年度、「横浜市立図書館のあり方懇談会」を実施し、今後のサービス内容、経営のあり方についての提言を教育長に出してもらった(提言はH19.8)。現在はまだその内容を検討している段階。地域情報拠点化や市民との協働(これは市政全般で言われているが)、図書館市民会議、寄付文化、など。
 昨年から「図書館の目標」を定めている。「振り返り」をホームページや館内掲示で公開している。
 横浜型スケジュールでは、当該年度の事業は12月までに終わらせ、1~3月は次年度の準備期間。成果を評価して能力給に反映させている。職員一人ひとりが自己申告で年間目標、計画を作成し、上司や部下と共有することにしている。
(千代田)
 千代田区が作った「基本構想」があり、そこには主要なことが書いてある。小さな区だが、いろんな要素のあるまち→「千代田ゲートウェイ」構想
 連想検索システムや新書マップなどに取り組んできたが、やっと落ち着いてきた段階。来館者数は1日当たり3,300~3,500人(以前は800人くらいだった)。来館のピークは日に3つある(昼、午後、夜)。(コーディネーターから、「来館者の人数が評価の対象になっていないのは驚きだ」とのコメント)。

Q.(富山県立図書館のTさん)昨年度から厳格な業績評価を導入したが、教育委員会や館長と司書のイメージギャップがある。対行政のアピールも必要と感じている。
A.(横浜中央図書館の小野寺係長)横浜では、取組み姿勢も評価するので、業績だけを評価するわけではない。館長はたたき上げの人ではないが、相互コミュニケーションにより軋轢が生じることはない。

運営の改革について
(各パネリストが自分のことろの現状や取組み状況を説明)
Q.千代田図書館に入っている3業者の連携はうまくいっているのか。
A.(千代田図書館の田中館長)管理、カウンター、委託先の三層に分かれてしまったことの反省から、専門性の重視もあって、指定管理者制度を導入することになった。情報の共有は毎日やっているので、問題はない。
Q.指定管理者は5年間という期間だが、企業から見た場合、継続性が必要だと思われる。今後その点が問題になっていくのではないか。
A.(千代田図書館の田中館長)別の業者に替わっても、しっかり引き継げば、ほぼ問題はない。

財源・経営資源の改革について
(ふじみ野)
 学校との協力関係により、古い資料を提供してもらっている。
(我孫子)
 毎年1,000人が団塊の世代として我孫子市に帰ってくる。シニア世代に働きかけ、NPOやコミュニティビジネスを応援している。関わってもらいながら理解者を増やしていくよう取り組んでいる。
(横浜)
 寄贈本については、手間が掛かるので、中央図書館で受け入れることにしている。人気50位の本でも200人くらい予約が入るので、人気ベスト50の本については「持っている人は提供を!」とホームページで呼びかけている(コーディネーターが「いいアイデアだ」とコメント)。
 
 このような内容で一日たっぷりかけた分科会でした。2日間の大会に参加しての最大の成果は、図書館という世界には、司書を中心として大変多くの従事者がいて、長年にわたり日夜業務に「勤しみ、研鑽を重ね、情報交換を行っているということを実感したことです。この世界は間口も広く、奥も深そうであり、まだその全体像は十分に見えていませんが、この大会にじっくり参加できたことでその一端を垣間見て実感することができました。非常に有益だったと思います。
 図書館を取り巻く状況は、地方分権、情報化の進展、住民ニーズの多様化など、様々な要素が絡み合いながら激しく変化しており、その中で、ますます重要になる役割を果たしながら時代を引っ張っていくことが求められていると思います。しかしながら、一般的に図書館に対する認識や理解は必ずしも十分とは言えず、行財政改革の中で厳しい風に晒されているのが現状ではないでしょうか。
 私は、図書館というものを、従来のような「本を借りたり」「調べものをしたり」するだけの場所ではなく、市民が主体的に豊かな生活と活動を展開していく上で最も重要で有益な施設として、また、自律的な地方自治の推進の重要なパートナーとして、そして、産業振興・コミュニティ形成の強力なサポーターとして、極めて重要な位置づけを与えて飛躍していく存在となるべきだと強く感じています。可能な限り、十分な予算を配分し、十分な専門職体制を整備していくべきだと思います。それだけの投資・配分をしても数倍、数十倍の効果が得られるのではないでしょうか。

2007年12月16日 (日)

志木市における市民協働~その取組みと改善の歩みについて

 埼玉県に志木市という市があります。人口は約68,000人、面積9k㎡(ちなみに津市は710k㎡)という小さな市です。平成13年から1期4年だけ市長を務めた穂坂邦夫氏が非常に大胆で多彩な市民自治の取組みを展開し、注目を集めました。私も志木市を紹介する本を読み、注目してきました。いつかは穂坂氏の講演を聞きたい(実は何度かそのチャンスを逃してきました)と思っていましたら、平成19年10月18日、NPO法人まちづくり情報センターかながわ(通称:アリスセンター)が、志木市の政策審議室長を招いてかながわNPO研究会「新たな協働のステージ・連続学習会」第2回を開催することを知り、横浜まで出かけて参加してきました。穂坂市長、そしてその次の市長の時代にかけて志木市政で市民協働を担当してきた職員であれば、ある意味、当事者であった穂坂前市長より客観的な観点から話を聞けるかもしれませんので、非常に期待を抱きました。
 講師を務めてくれたのは志木市企画部政策審議室長の村上孝浩氏です。昭和61年に市役所に入庁し、細田、穂坂、長沼の3代の市長に仕えてこられた方です。
 まず、志木市における市民協働の経緯について説明されました。
 昭和60年、細田市長が就任します。それまでは行政主導だった市政を「市民とともにつくる 明日の志木市」をスローガンに広報広聴活動を重視した市政運営に変えていきました。公募市民10名、市選定委員10名、議員1名による「21しき市民会議」を設置するとともに、平成7年には公募市民らとともに手作りの総合振興計画を策定しました。このような細田市長の取組みもかなり先進的だったと思われます。
 4期16年続いた細田市政のあと、無投票で穂坂邦夫氏が市長に就任します。掲げたスローガン「市民が創る 市民の志木市」は、細田市政のものと大差なさそうですが、就任してすぐ「今やっている仕事を全部白紙に戻す。本当に市民のために必要なものをやろう」と宣言し、927事業をゼロベースで見直しました。そして、「市民がオーナー、市長はシティマネージャー」という市政運営を基本姿勢とし、「市政運営基本条例の制定」「市民委員会の設置」「地方自立計画の策定」「行政パートナー制度の導入」などを矢継ぎ早に打ち出しました。
 市民委員会は、スローガンの「市民が創る 市民の志木市」を実現するため、市民及び市が協働し、市民自らが行政の運営に関して必要な提言や調査研究を行うことを目的として、20歳以上の市内在住・在勤で市政に深い関心と熱意のある人を公募しましたが、誰でも審査なしに参加できる形にしたため、第1期は252人が参加しました。任期は2年の無償ボランティアです。行政組織、行政課題に対応して9部会(第2期は8部会)を設置して、具体的な活動を行いました。特徴的なのは、この手の市民参加は高齢男性と中高年女性の参加が大半を占めるケースが多いのですが、志木市の場合、30歳代15.5%、40歳代15.1%、50歳代20.2%、60歳代33.7%、70歳代11.1%という風に、現役世代を含め幅広い年代にわたっていることが特徴的です。また、活動のテーマ・内容は市民委員会自ら設定したものだけでなく、行政サイドから具体的なテーマを設定して検討を依頼し、その検討結果を行政が尊重するという関係もユニークです。例えば、助役を本部長とした「市民が創る市民の志木市推進本部」及び市職員による「検討委員会」が、市のすべての事務事業927事業のゼロベースでの検証作業や組織改革について検討を行った際、市民委員会においても市民の立場で「事務事業」と「組織改革」について検討を依頼した、というものがあります。そして、その検討成果は、平成14年度予算編成作業の参考資料として活用されました。第1期の市民委員会は全部で23本もの報告書や提言を作成して市に提出しています。非常に精力的だと言えます。
 平成15年2月には、平成14年度~33年度の20年間を対象とする「志木市・地方自立計画」を策定しました。この計画は「市や町が形成された原点に立ち帰り、「市民と協働」して運営する「日本一あたたかい、ローコスト(低い費用)、ローランニングコスト(低い運営費用)の「まち」を目指す長期的で大胆な「地方の自立」を目指す計画」とのことです。この計画の内容は高い理念だけでなく、具体的内容も極めて大胆です。例えば、
○「市民が市を運営する」ことを原則に市の業務を市民及びNPOに委ね、サービスの対価として、支払った「市税」の一部を市民(行政パートナー)に還元(地域通貨制度とも連動)する。
○基礎自治体(市町村)は、「公務員」によって運営されるという前例を壊す、新しい時代に対応する「第3の組織(市民との協働)」が目標であり、(以下略)。
○業務参加する市民(行政パートナー:有償)は、単なる労働力として参加するのではなく、いつまでも、だれもが安心して暮らせる「ふるさと志木市」を築くために、自らのもつ経験や知識あるいは時間的ゆとりを活用し、公務を担うという「社会貢献活動」と位置づける。

などです。
 何度か出てくる「行政パートナー」ですが、この計画に参画する市民公益活動団体をそのように名づけ、市との間で業務参加についてのパートナーシップ協定を締結し、対等な立場に立った「行政運営の協働者」として位置づけられています。市が行う公務のうち、事業的業務と管理的業務を対象とし、徐々に市から行政パートナーに業務を移していき、計画達成後には行政パートナーは523人となり、当初619人いた正規職員は301人になります。将来的には30人から50人程度の正規職員と市民が運営する市政を目指す、としています。行政パートナー経費は、523人で6億7,400万円、一人当たり135万円を支払う計算になります(積算根拠は時給700円×8時間×20日×12月=1,344,000円)。
 この制度に対しては、「市民を下請けとして安く使っているだけではないか」とか「時給800円の非常勤職員とあまり違わないのではないか」といった批判が出ています。それに対して講師の村上氏からは、「行政パートナー制度を運営する方がずっと大変(適当な団体が見つからないと任せられないし」「(雇用関係がないので)人を選ぶことができない。その代わり、誇りを持ってやってくれる」といった説明がありました。あまりに大胆で先進的であり、安易には評価すらできない制度ではないでしょうか。直感的には、現実的にいささか無理があるような気もします。行政には行政としての役割があるはずで、何もそこまで崩さなくてもよさそうな気がしますね。

 このような大胆で多彩な施策を繰り出した穂坂市長ですが、多くの市民、議員、職員が当然次も出るものだと思っていたところ、1期限りで勇退しました。「やるべき施策は1期で全部やり尽くした」と言ったと何かの本で読んだことがあります。
 穂坂市長は後継者指名を行いませんでした。もともと県からの出向で細田市政時代からずっと在職してきた助役と県会議員の2人が市長選に出馬。市議19人中18人が元助役を応援しましたが、大差で県議が当選しました。現在の長沼市長です。この方、25歳で市議になり、その後、県議となり、途中、自転車泥棒もしたそうです。非常にユニークな市政を展開した前任者から市長を引き継ぎ、やりにくい面もあったでしょうし、軌道修正が必要な面もあったことと思います。長沼市長は就任してすぐ「行政施策安定化プロジェクトチーム」(市職員で構成)を設置し、穂坂市長時代の様々な新規施策(65施策)をゼロベースで見直す作業に着手します。そして、計画どおり執行すべき事業8、一部改善を要する事業4、他の事業との統廃合を含めた抜本的な見直しを要する事業10、という最終結果を得ます。主なものを挙げると、「市民委員会の設置」は区分では「見直し」になっており、「今後は市民委員会に代わる新たな市民協働のあり方を考える」として、事実上廃止とされました。「行政パートナー制度」については、区分としては「改善」であり、「自立計画は、20年間の職員採用の凍結など、人事管理については無理な面がある。今後は、「市民協働」を前提とした簡素で効率的な行政運営を目指した新たな改革プランを検討する必要がある」として、事実上抜本的な見直しに近い結論になっています。また、「行政パートナーに対する資質の問題や一部の団体が受託施設を「仕切っている」という問題に対しては、団体の選考や研修、評価によって解決できるものと思われる」という検証結果は、語尾は「解決できる」という表現ですが、本質的な問題の存在を指摘しており、やはり現行どおりの制度を続けることは不適切だという認識が明らかになっているようです。
 そして、平成18年7月「志木市市民協働運営会議」が設置されました。構成委員は、公募による市民、識見者、地縁団体代表、市民団体代表、20名程度を市長が委嘱、ということで、前身の「市民委員会」からは根本的に様変わりし、よくあるスタイルに戻った感じがします。
 以前が悪かった(失敗に終わった)と言っているのではなく、志木市における市民協働が細田時代の第1ステージ→穂坂時代の第2ステージ→長沼時代の第3ステージと変遷している、ということであり、歴史的な評価が明らかになるのはもう少し先のことではないでしょうか。細田時代、穂坂時代の経験を踏まえた長沼市政がよりよい成果を挙げるという保証もありません。

 後半、質疑応答が行われました。
Q.市民委員会は誰でも参加できるようだが、何か問題点はなかったか。
A.参加したのは意欲ある人ばかりであり、一部にはその意欲が空回りする人もいた。行き過ぎた動きをする人や、すごく権限があると思い込む人、自分の要望の絶対的実現を求める人などもいた。
Q.行政パートナー制度は、「ワーキングプア」を生み出すのではないか。
A.確かに生活給にはならない。一線で仕事をする人以外や、子離れした主婦などが参加した。

Q.民間の市場を圧迫するのではないか。
A.もともと市の仕事をやってもらうものなので、民間の仕事を浸食はしていない。
Q.市民委員会は、よく250人も集まったと思うが、どういう工夫をしたのか。
A.駅前でビラ配りなど非常に苦労した。2期目はビラ配りまではしなかった(139人で発足)。
Q.メンバー間の「自治」はうまくいったのか。
A.メンバーたちが、自分たちの運営要領やルールを作って進めていた。
 最後に、村上氏のコメントです。
穂坂市長は自民党の実力者であり、議長や議員団団長もやった人だった。だから、自分がやりたいことをやっていく上で、市民の後ろ盾が欲しかったのかな?と思う。しかし、実際には思い通りに行かない面も出てきていた。
 一方、長沼市長は、後ろ盾となる組織がない、市民派。前任者から引き継いだ市民委員会をどうするかは、非常に悩んでいた(市民派市長としては簡単に廃止という決断はできない)。結局、「一旦リセットすべき」と判断した。安定化を望むスタンスを持っており、団体代表も入れよう、と判断した
」。

 市政を直接担い、リードする首長(経験者)の生の声を聞くのも迫力があり、有意義ですが、今回のように、実情をよく知り、かつ、中立的な立場である職員の話を聞くのも、異なる視点、客観的な視点からの見方が提供され、非常に有意義でした。
 やるべきことは全部やってしまったから、と言って1期で引退した穂坂市長でしたが、自分一人で何でも全部できるはずはなく、多くの関係者との「協働」作業で完成させ、定着させ、成長させていくべきものであると考えたとき、あと1期か2期務め続け、自分が生んだものを育て、一人立ちさせるまで面倒を見る、そういう責任を全うすべきだったのではないか、という気もします。一方、後任の長沼市長ですが、前任者の負の遺産を解決するという役割を担っている面もあろうかと思いますが、単に「元に戻す」のでは意味がありません。よい成果は成果として引き継ぎ、発展させていくとともに、自分なりに新しい要素を加えていかなければならないわけで、今後のお手並みを拝見したいと思います。

2007年12月 9日 (日)

「コモンズと地域社会」

 平成19年10月13日(土)、「コモンズと地域社会」というテーマで研究会が開催され、参加してきました。講演を行ったのは「コモンズと永続する地域社会」の著者、平竹耕三氏と、明海大学不動産学部の齋藤広子教授のお二人です。都市再生機構のEさんがもう何年も主宰し続けている「比較住宅政策研究会」という公開勉強会ですが、都市住宅学会の関東支部の行事にも位置づけられ、学会の助成金が少し出たようです。今回の報告は結構、アカデミックです。
 研究会の要旨が次のように書かれていました。
 「コモンズ」ということばは、「シェア=共有」という意味で広く理解したとき、土地政策、住宅政策、住宅計画(コーポラティブ、コレクティブなど)、コミュニティ、地域再生、市民参加型まちづくり、環境保全、非営利金融などすべての分野で共通項になり得る概念である。これまで社会学、民俗学、文化人類学等の研究テーマになってきたコモンズであるが、住宅計画や住宅政策等の分野では、コモンズだけを切り離して論じられた事例は少ない。コモンズを社会性・公共性(市民・自治体)から論じている平竹氏に対して、市場性や経済(不動産業界)の立場から論じている齋藤氏との比較によって、コモンズの可能性と限界を明らかにすると同時に、両者に共通する環境や資産管理の持続性という観点から、学際的なコモンズ論に発展させるように議論したい。

 さて、最初の講師、平竹耕三氏ですが、「コモンズとしての地域空間 共用の住まいづくりをめざして」(コモンズ、2002年)、「コモンズと永続する地域社会」(日本評論社、2006年)といった著書がありますが、本職は京都市役所の職員です。龍谷大学大学院で修士論文「コモンズとしての地域空間」をまとめています。京都芸術工科大学特認教授も務める経済博士という顔も持っています。
 わが国では、土地の所有権の自由度が強く、その制約が緩やかであるため、いわゆる「建築自由の原則」があります。そのために、地域のコミュニティが分断され、地域社会を衰退への追い込む事態を招き入れている、という現状認識からスタートしています。そして、平竹氏は「地域社会が永続性を保つためには、その基盤としての土地利用について、地域的にコントロールできる仕組みが不可欠である」と主張します。その具体的なアイデアとして「コモンズ」を位置づけようとしています。コモンズとは、平竹氏のレジュメによれば「土地を公有や地域所有とし、地域空間の管理を地域住民が主体的に行うもの」と定義することができそうです。平竹氏は、それ(コモンズ)が地域で豊かな人生を送れる制度的な保障につながると主張しています。そして、その際の問題意識として、次の3点を掲げています。
① 日本では住民一人ひとりが豊かさを実感しえない原因に、土地が利用価値よりも資産価値から評価される結果、地価が高く、人間の生活という観点から適正に利用されていない問題がある。
② 土地問題を解決し、住民一人ひとりが豊かな生活を回復するためには、規制緩和によるのではなく、土地を脱市場化して地域住民の生活や福祉の向上のために利用するシステムを確立していくことが必要である。
③ その具体的方法としては、土地あるいは空間を個人個人の所有や管理に分割せず、地域住民が共的に利用するコモンズとして、また、地域社会を、コモンズの地域管理を担い、コモンズを支える社会関係としての地域主体に再構成していくことが必要である。

 さて、研究会の席上、平竹氏はこのような持論を分かりやすく説明するため、スライドで幾つかの事例を紹介してくれました。
 京都の祇園と言えば、芸妓や舞妓のまちとして全国的に有名ですが、この京都市東山区祇園町南側は、学校法人八坂女紅場学園(やさか・にょこうば・がくえん)が地主の借地だそうです。200区画ほどに分割され、お茶屋、飲食店、住宅などに賃貸されていますが、借り主はまちづくり協議会を組織し、大家との間で町並みを守る合意書を結び、自主ルールにそって建物の概観デザインを決めてきたため、結果的に優れた景観と佇まいのある地区が維持保全されているのです。3.3haのエリア内の道路もすべて学校法人の所有だそうです。祇園町北側は個人の土地所有ですが、どこにでもあるような雑然とした歓楽街になってしまっており、北側と南側を対比すると、見事なまでの違いです。歴史的な経緯があるとは言え、土地を面的に押さえることによってまちづくりをここまで徹底的にコントロールできている事例があることに、本当に驚きました。我々は、都市計画規制や助成制度、あるいは自主的な協定などによって、一生懸命に良好なまちづくりを実現しようとしていますが、なかなかうまくいっていません。土地の所有権という「のど元」を押さえるだけでこんなに劇的に効果があるというのは、一種の「コロンブスの卵」のような気がしました。
 その他の事例として、三重県松阪市殿町に現存する武家屋敷長屋「御城番屋敷」(ごじょう・ばんやしき)なども紹介されました。我がふるさとの隣町にもこんな地区があったのか!と、これまたびっくり。是非、現地を見に行かなければなりません。
 まちづくりとか中心市街地活性化においては、土地の所有権にまで踏み込まなければダメだ、今までそこから逃げてきたからお金をいっぱい使いながらも何も成果を上げてきていない、という指摘を、最近耳にしています。核心を突いているかもしれないとは感じていましたが、今日のこの事例やコモンズ理論を聞いて、真実だと確信しました。是非、この問題は掘り下げなければなりません。そして、何らかの形で制度化するなり、実行に移すなりしていく必要があります。

 この日の研究会、後半は齋藤広子氏の「現代社会におけるコモンズの形成と住環境マネジメント」というテーマの講演(内容は省略)、そしてそのあとは参加者との間の質疑応答でした。話題提供が素晴らしかったので、質疑は非常に活発でした。
 翌日、主催者に送った感想メールを以下に添付しておきます。
非常に中身の濃い、示唆に富む内容だったので、とてもあの時間だけでは消化・理解できませんでしたし、ディスカッションも序の口どまりだったようで惜しかったですね。私も発言の機会を頂きましたが、十分貢献できませんでした。
 「コモンズ」について感じたことを少々。
 住宅に着目したとき、その水準は「居住水準」で図ることが一般的であり、その中身は端的に言って「広さ」です。しかし、住宅の水準や価値、住み心地が「広さ」だけで表されるものでないことは、もう国民は気づいていることと思います。でも、それが何なのか共通認識になるには至っていません。では、住宅地に目を移したとき、その議論はもっと漠然としてきます。官製の「住環境水準」が無力なことは言うまでもありませんが、道路の広さ、公園面積、公共交通へのアクセスなど個別の指標は幾つかあるものの、そんな表層的なものではない、もっと本質的な「良さ」があるはず!それを(その一部か全部か分かりませんが)体現しているのが「コモンズ」であるように思われます。少なくとも、非常に豊かなヒントが埋蔵されていることは、どうも確かな気がします。
 是非このテーマだから聞きたい!と念願して参加したわけではありませんでしたが、こりゃ大きなお土産をもらったなぁ、というのが帰り道での率直な感想です。これからの仕事や勉強を進めるに当たって、貴重なネタとして大切にしていきたいと思います。
 あと、個人的には、平竹さんの著書の中に、京都以外の事例として三重県松阪市の事例が出ているようですが、実家の隣市なので、別途、関心を持ちたいと思っています。場合によっては、平竹さんに個別にお尋ねすることがあるかもしれませんので、その節は、連絡先などまた教えて下さい
」。

 それに対して、講師の平竹氏からご返事を頂きました。御城番屋敷に関する箇所だけ抜粋して紹介させて頂きます。
松阪市の御城番屋敷は、1863(文久3)年に建てられていますから、本当に様々な経過を経て今があるという、生きた教材としての素晴らしい知恵が包蔵されていると思います。村主さんの故郷のお近くということでしたら、ぜひ関心を持ってあげていただきたいと思います」。

2007年12月 8日 (土)

「全国子育て協同集会」に少しだけ参加してきました

 市民による子育ての“協同”をテーマとした「第1回全国子育て協同集会」というイベントを少しだけのぞいてきました(副題は『「生きづらさ」を超えて―競争から、共感・協同の子育てを市民の手に―』)。一体どんなイベントなのか、その開催のお知らせとして、次のような文章が載っていました。
子どもへの虐待件数の増加や、いじめを背景とした中学生の不登校が12万人を超え、過去最高となるなど、子どもたちをめぐる深刻な状況が広がっています。このような事態を前に、多くの子ども、親、自治体、市民が、子どもを中心としたまちづくりに向けたネットワークを広げ始めています。こういった現状を背景に、このたび市民による子育ての“協同”をテーマとした第1回の「全国子育て協同集会」を開催する運びとなりました」。
 主催は実行委員会の形をとっていますが、実態は「ワーカーズコープ」というNPO法人です。そして、ワーカーズコープとは、そのHPを見ると、
私たちは子育て、障害者・高齢者福祉などの地域に必要な事業を市民でおこす、「新しい福祉社会の創造と地域の再生」を目指すNPOです。全国的なネットワークと様々な分野での事業に携わりながら、働く人の主体的な参加に重きをおく協同組合的な組織運営をしています」。
と説明されています。その母体は「ワーカーズコープ労協センター事業団」という企業組合であり、高齢者、子ども、障害者、まちづくりに関わる様々な地域密着事業などに活動の幅を広げていくため、NPO法人を取得した、ということのようです(詳しくは分かりませんが)。
 平成19年10月6日の全体会は、第一部が記念講演、第二部がパネルディスカッション、第三部に記念イベント(コンサート、ミュージカル)という構成で、翌日に分科会が行われました。私は、6日の午後に所用があったので、第一部の記念講演だけを聞きました。
 講師は大和久勝(おおわく・まさる)さん。2005年まで都内の小学校教諭をされており、現在は大学講師、という方ですが、「共感力-『共感』が育てる子どもの自立」「困った子は困っている子」「ADHDの子どもと生きる教室」などの著書があります。記念講演のテーマは「『共感』が育てる子どもの自立~あせらず、あきらめず、ゆっくり、ていねいに~」であり、2時間かけて「ゆっくり、ていねいに」お話をされました。
 最初に、2つの手紙を紹介してくれました。一つは、1998年、中学生が女性教諭をナイフで刺殺するという衝撃的な事件が起きたあと、当時の町村文部大臣が全国の中学生あてに書いた手紙で、文部公報に載ったそうです。私もそんなことがあったような記憶があります。大和久氏は、この手紙が「上から見下ろすような視線で書かれており、共感する言葉が見当たらなかった。自分の中になぜか落ちてこなかった」と感想を述べていらっしゃいました。もう一つの手紙は、群馬県の中学生が、喫煙を咎められたことを苦にして自殺する際に書いた手紙です。自分がしたことでまわりのみんなに迷惑を掛けたことを謝り、これまでの友情に感謝し、自殺という手段を選ばざるを得ない心境とまわりへの気遣いを素直に綴ったものだそうです。2つの手紙の対比が、多くのことを物語っていますね。
 そのあと、3つの具体的な話が紹介されました。カズオ、ナオキ、カイダくんという3人の子どもが出てくる実話、のようです。
 大和久さんの話のキーワードは「共感」です。子どもに共感するということは、子どもの心に寄り添うこと。大人から見ると「困った子」であっても、本人の立場に立てば「困っている子」だと見ることもできる。子どもたちは、分かってもらえない、理解してもらえない苦しみ、つらさを抱えて過ごしているのであり、暴力をしたり、切れたり、パニックを起こしたりするのは、「困っている」ことの訴え、叫びなのだと理解すべきだ、と訴えます。そういう「子ども観」の転換をした経験を語ってくれました。また、ADHDやLD、高機能自閉、アスペルガーなどの「軽度発達障害」の子どもを抱えた親に対しても、今までの子育ての苦労と今でも続く困難さに共感を示すことの重要性を語ってくれました。
 世の中、成果主義、効率第一の価値観が支配的であり、大人も子どもも余裕がありませんね。価値観が揺らいでいることや、経済成長が順調ではないことも影響しているかもしれません。そのしわ寄せはどうしても「弱者」に行ってしまいます。教育の世界では「子ども」です。
 私も、二人の子育てを経験し、父親としては比較的参加した方かな?と思っていますが、幸か不幸かこのような困難に直面しなかったこともあり、あまり深く考えたことがありませんでした。
 盛りだくさんの催し物の、ほんの一部しか参加できませんでしたが、非常に熱心なお母様方の中に紛れて、貴重な話をじっくりと聞くことができました。主催者側も参加者も、皆さん熱意に溢れているようで、頼もしいやら、たじろぐやら、恐れ入りました、という感じでした。
 すぐ何に活かすというわけではありませんが、また少し視野が広くなったような気がする、いい経験でした。

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