全国図書館大会に参加して
最近、「未来をつくる図書館 ニューヨークからの報告」(菅谷明子著、岩波新書)を読み、図書館というものに対する認識(素晴らしさや可能性)が劇的に変わりました(まさに「目から鱗が落ちる思い」)。このような図書館は国内にはないものかと思っていたら、浦安市の図書館が極めて先進的で意欲的であることが分かりました。適当な本を探し出し、「浦安図書館でできること 図書館アイデンティティ」(常世田良著、勁草書房)を読み、今度は浦安市立図書館の素晴らしさに感激しました。市民の自律的な活動や情報提供を推進するには「図書館政策」が極めて重要だという認識を強くしました。さらに何かいい情報がないかと探していたら、「全国図書館大会」というイベントがあり、今年は東京で開催されるということを発見しました。この大会、第1回はなんと1908年に開催されており、それから丁度100年目、戦時中の中断はありますが、今年が第93回という非常に歴史と伝統がある催し物です。これは図書館というものをもっと知るためにはまたとない機会だということで、思い切って参加費用7,000円を払って申し込みました。平日だったので仕事の都合で行けなくなったら痛いなあと懸念していましたが、幸いほぼ全て参加することができました。
大会は初日に全体会、二日目に分科会という日程でした。登録した参加者数は1,529名という大規模なものでした。
平成19年10月29日、全体会は日比谷公会堂で行われました。主催者や来賓が挨拶する開会式には間に合いませんでしたが、日本図書館協会理事長による基調講演と井上ひさし氏による記念講演を聞くことが出来ました。
まずは、日本図書館協会塩見昇理事長による基調報告です。塩見昇氏は、大阪教育大学名誉教授で、学校図書館の研究の第一人者、だそうです。著書には「教育を変える学校図書館」「図書館の発展を求めて 塩見昇著作集」などがあります。講演のポイントは以下のとおりですが、役所に対する批判的な発言もあり、骨のあるお方と見受けました。
○教育基本法の「改正」と進行する教育制度改革
・教育内容への国の関与、教育行政の主導性を強化した新たな教育基本法が制定された。これは、図書館法制を支える中心的な基盤の改変である。
・社会教育法~図書館法への波及も出てくる。6月まら中教審生涯学習分科会制度問題小委員会で検討中。
○図書館設置基盤、母体の変容
・自治体の大合併が行われ、2006年4月現在で7年前の3,232団体が1,821団体に再編された。その結果、公立図書館設置状況は、市97.8%、町58.4%、村22.3%、全体で71.7%となった。しかし、これは見かけ上の数値アップであり、実質と乖離してしまっている。
・学校社会においても、大学の合併、短期大学の再編・廃校が進んでおり、実質的には後退となっている。
○管理運営、職員構成の多様化
・指定管理者制度の導入状況:導入した自治体43、今年度中に導入予定16、来年度以降導入予定50、計109(→1,284自治体の1割未満)。初期の導入を継続すべきかどうか見直す時期を迎えるケースも出てくる。
・静岡市の導入計画は、いったん白紙になり、市教委が図書館協議会でなじまないという表明をした。
・埼玉県北本市議会では、導入中止を求める請願を採択し、市の導入計画を否決した。
・図書館友の会全国連絡会は、中央省庁や地方八団体に対して、指定管理者制度は図書館の理念になじまず公立図書館に適用しないように求めることを含む要望活動を行った。
・山梨県知事選では、県立図書館の建替え方式が争点になり、PFI方式に否定的な候補が現職を破って当選した。
○IT化の進展と図書館
・国民のインターネット利用状況は、人口普及率が68.5%、利用人口は8,754万人に達する。
・総務省では、本年3月に「新電子自治体推進指針」を策定。
・総務省調査「電子自治体推進のための住民アンケート」において、図書館のオンライン貸出予約が最も高利用(57.4%)であることが明らかとなる。
○連携した図書館事業の推進と図書館ネットワーク
・大学図書館と地元公立図書館との連携が各地で盛んになってきており、石川県では、県立を要にした県内横断検索システムに大学も加わっている。
・鳥取県では、県立を中心に大学、市町村・県関係機関、学校などを網羅する配送システムを確立した。
○学校図書館
・平成19年度から「新学校図書館図書整備5ヵ年計画」が始動した。単年度200億、5ヵ年で1,000億と大幅増額になった。
続いて、作家井上ひさし氏による記念講演「文化の力 図書館の力」です。井上ひさし氏の講演は散漫な雑談といった風でしたので、特に図書館にかかわりのある部分だけ紹介いたします。非常に濃密な図書館との関わりを持っていることに驚きました。
上智大学に進学し、夏休みに帰省した際、母の知り合いに岩手県釜石市の図書館長がいて、アルバイトをさせてもらった。遠野市に重要な本を疎開させていたが、それを戻す仕事だった。その仕事をしながら和書300冊を全部読んだ。
自分は本に線をひくくせがある(注:この点は村主と一緒)ので、自分で本を集めないといけない。ある日、本の重みで家の床が抜けてしまった。その大量の本をどうしようかと思ったが、当時、各地に農村生活改善センターが作られており、そこに13万冊の本を寄贈することにして、農村青年が司書の勉強をしてセンターの2階を図書館にした(名称:遅筆堂文庫)。目的外使用だと怒られたが、どんどんやらせた。そのうち、ガットウルグアイラウンドで作られたもののうち面白い施設ベスト20に選ばれた。農村青年らに「図書館を作るなら、「人が集まるところ」として劇場も作ってくれ」と頼んだ。今も毎年5,000冊くらい寄贈しており、蔵書は20万冊になった。ちなみに、このために投じている私財は年間、古本で2,000万円、新刊本で700万円くらい。
2日目は、場所を代々木の国立オリンピック記念青少年総合センターに移し、分科会が開催されました。分科会は全部で何と22もありました。当たり前ですが、どれか一つしか参加できないのです。何ともったいない!私は第1分科会「公共図書館部会」に参加しました。テーマは「地域を支える情報拠点をつくろう」です。午前中は、地域の情報拠点として、これからの図書館をめざした改革に取り組む東京圏の公立図書館4館の事例発表、午後はそれを受けた形でのパネルディスカッションでした。
■事例発表1「人口10万合併都市の試み-埼玉県ふじみ野市の場合-」
ふじみ野市立大井図書館主任:松本芳樹氏
発表した松本氏は、14年間上福岡図書館に勤務し、本年4月に大井図書館に異動したとのこと。ふじみ野市は、2005年に上福岡市と大井町が合併して誕生したましたが、旧2町にはそれぞれ図書館がありました。合併前から「相互利用協定」を締結していたので、合併に伴う利用者側の混乱はあまりありませんでした。規模には多少の差があるものの、並列館という位置づけなので、困難なこともあり、解決すべき課題に少しずつ取り組んでいる、という発表でした。発表の中で言及された以下の二つの報告は、どうも図書館関係者にとって非常に重要なもののようであり、要チェックだと思われました。
・「地域の情報ハブとしての図書館像:課題解決型の図書館を目指して」(2005年1月)
・「これからの図書館像:地域を支える情報拠点をめざして(報告)」(2006年3月)
ちなみに、両者は略称で「2005年の図書館像」「これからの図書館像」と呼ばれているようです。
■事例発表2「我孫子市民図書館のきめ細やかなサービスと運営の工夫」
我孫子市民図書館館長:池田裕美氏
我孫子市民図書館は、固定館が3館と移動図書館14ステーションで構成されています。蔵書数38万冊、利用者登録率45%、年間貸出数134万冊、市民一人当たり年間9.9冊の貸出です。
我孫子地区館が開館した平成14年から始めた新規サービスも、平成18年度には郵送利用が年間50回、宅配サービスが年間301回にまで増えました。
小中学校の児童生徒への情報発信のために、市内の全小学校の図書館の整備を手伝いました。本棚を先生が日曜大工で作ったり、校長がカーテンをどこからか調達してくるなど、最初の一歩を踏み出すと歯車が回り出していきました。子ども用の本の紹介をホームページで行いました。 図書館利用者に気持ちよく利用してもらえるよう、接遇に気を使い「感じのよい図書館員」を目指しました。バイト用語も禁止しました。大人向けのものもある「お話会」は、職員のスキルアップには効果がありました。
人員削減されたので、有償ボランティア「市民スタッフ」を募集し、細やかなサービスの充実に努めました。我孫子市では平成18年度から「提案型公共サービス民営化制度」がスタートしました。図書館で採択された事業はまだありませんが、職員はよい刺激を受けているとのこと。熱意と細やかな気配りに溢れる女性館長を中心に、熱心に取り組んでいる様子がうかがえました。
■事例発表3「横浜市立図書館の財源創出の取組-図書館の広告事業-」
横浜市中央図書館企画運営課調整係長:小野寺紀子氏
横浜市の広告事業は、アントレプレナーシップ事業からスタートしました。アントレプレナーシップ事業とは、職員自ら提案した事業を、提案者が企画から事業化まで責任をもって推進する仕組みです。横浜市役所全体で、2007年度には、1億4,000万円の広告料収入、経費縮減約5,000万円という成果がありました。
横浜市立図書館における広告事業の取組みとしては、図書館ホームページのバナー広告(2006年度の収入182万円)、図書貸出票・資料情報の用紙(感熱ロール紙)の裏面への広告掲載(用紙の寄付受け:これまでに120万円を節減)、紙芝居用貸出袋(あらかじめ広告を印刷した袋を企業から寄贈:約70万円の節減)、パンフレットラック(大学案内パンフレット等を配布するラックを設置し、設置料約130万円の収入)といった内容です。
収入の金額的な成果だけでなく、広告事業を行うに当たり図書館の持つ資産を有効に活用する必要があるため、自らの特徴を客観的に捉え直す機会となったとか、職員に自ら財源を獲得しようという意識が醸成され、予算の有効活用という姿勢が生まれたといった「効果」もありました。
■事例発表4「千代田図書館と地域社会との連携~指定管理者制度による図書館経営~」
千代田区千代田図書館長:田中榮博氏
新しい千代田図書館は、国と千代田区の庁舎を合築したユニークな事例である「九段第三合同庁舎」の9階、10階に入っており、私も竣工直前に行われた見学会に参加して以前に見ていました。標題にあるように「指定管理者制度」を導入しており、指定管理者は「ヴィアックス・SPSグループ」という民間企業です。この企業は「千代田ゲートウェイ」を主体とし、「区民の書斎」「創造と語らいのセカンドオフィス」「歴史探究のジャングル」「キッズセミナーフィールド」という計5つのコンセプトを提案して選定されました。特筆的なものとしては、国立情報学研究所の全面協力による「連想検索システム」、「図書館コンシェルジュの配置」「こどもひろばサービスの実施」「身障者向けの図書資料の宅配サービス」「無線LANサービス」などが挙げられます。また、今後は、「ディジタルコンテンツサービス」(インターネットから、利用者パソコンアクセスによる、デジタル化された図書資料の提供を行うサービス)を平成20年度から本格運用する予定とのこと。文句なしにわが国の最先端を走るモデル的な図書館であると言えましょう。ちなみに、ここの図書館は教育委員会ではなく区民生活部文化スポーツ課という区長部局が所管しているそうです。
午後はパネルディスカッションでした。パネリストは午前中に事例発表した4名で、慶應義塾大学文学部の田村俊作教授がコーディネーターを務めました。
5つの事例の共通事項として挙げられるのは、自治体行政の変化に対応した、新しい制度導入の取組みや工夫です。田村教授は4つの切り口を提示しました。すなわち「地域の情報拠点となるためのサービス改革」「サービスを支える図書館運営の改革」「サービスを支える財源の改革」「図書館職員の意識改革」です。これらの改革の目標として「地域の情報拠点」を目指すこととしています。
パネルディスカッションは、まず会場からの質問への応答から始まりました。
Q.学校図書館との関わりについて(我孫子市民図書館へ)
A.それは館員の長年の思いだった。頼まれもしないのに行けなかった。敷居が高いというのもあった。幸い「助けてほしい」とHELP信号が来たので「渡りに船」と入っていった。
Q.千代田図書館が教育委員会から区長直轄に変わった経緯は?
A.区の組織全体の見直しの一環として行われたもの
(コーディネーターから、田中氏は業務委託を受ける事業者の立場なので答えにくいし、ご存じでないのはやむを得ないと助け船を出しましたが、質問者は「非常に重要なポイントだ」と食い下がっていました)。
続いて、「サービスの改革」:コンセプト、理念とその背景・理由について各パネリストが発言しました。
(ふじみ野)
現在は直営だが、市の中では改革が議論されている。合併時に有利な方に合わせたことで、今アップアップしている。
旧大井町役場は総合支所にしているが、危うい状態で、全庁的な課題になっている。
図書館業務としては、貸出冊数だけでなく、もっとベーシックな指標を大切にしていくべきと考えている。例えば、相互貸借や障害者サービス(←これはあまり評価されない!)など。
(我孫子)
目指すものは3つ。
①きめ細かいサービス~合併せず小さい自治体として生きていくことを選択した。市長からは「市民から鬱陶しがられるくらい親切にして下さい」と言われている。宅配サービス利用者にお知らせも併せて配る。館員の服装への細かい注文も。
②市民要望の徹底的な反映~カウンターにお客様ノートを置き、何か言われたらすぐ書き留めるようにしている。利用者懇談会やアンケートなども実施している。
③待つサービスから打って出るサービスへ~学校への団体貸付け。まず学校図書室の整備に取り組んでおり、小学校は終了したので、現在、中学校に取組み中。学校に入らせてもらって有り難いと思っている。その他、保健センターでの読み聞かせを、ブックスタートの一つとして実施している。
(横浜)
平成18年度、「横浜市立図書館のあり方懇談会」を実施し、今後のサービス内容、経営のあり方についての提言を教育長に出してもらった(提言はH19.8)。現在はまだその内容を検討している段階。地域情報拠点化や市民との協働(これは市政全般で言われているが)、図書館市民会議、寄付文化、など。
昨年から「図書館の目標」を定めている。「振り返り」をホームページや館内掲示で公開している。
横浜型スケジュールでは、当該年度の事業は12月までに終わらせ、1~3月は次年度の準備期間。成果を評価して能力給に反映させている。職員一人ひとりが自己申告で年間目標、計画を作成し、上司や部下と共有することにしている。
(千代田)
千代田区が作った「基本構想」があり、そこには主要なことが書いてある。小さな区だが、いろんな要素のあるまち→「千代田ゲートウェイ」構想。
連想検索システムや新書マップなどに取り組んできたが、やっと落ち着いてきた段階。来館者数は1日当たり3,300~3,500人(以前は800人くらいだった)。来館のピークは日に3つある(昼、午後、夜)。(コーディネーターから、「来館者の人数が評価の対象になっていないのは驚きだ」とのコメント)。
Q.(富山県立図書館のTさん)昨年度から厳格な業績評価を導入したが、教育委員会や館長と司書のイメージギャップがある。対行政のアピールも必要と感じている。
A.(横浜中央図書館の小野寺係長)横浜では、取組み姿勢も評価するので、業績だけを評価するわけではない。館長はたたき上げの人ではないが、相互コミュニケーションにより軋轢が生じることはない。
運営の改革について
(各パネリストが自分のことろの現状や取組み状況を説明)
Q.千代田図書館に入っている3業者の連携はうまくいっているのか。
A.(千代田図書館の田中館長)管理、カウンター、委託先の三層に分かれてしまったことの反省から、専門性の重視もあって、指定管理者制度を導入することになった。情報の共有は毎日やっているので、問題はない。
Q.指定管理者は5年間という期間だが、企業から見た場合、継続性が必要だと思われる。今後その点が問題になっていくのではないか。
A.(千代田図書館の田中館長)別の業者に替わっても、しっかり引き継げば、ほぼ問題はない。
財源・経営資源の改革について
(ふじみ野)
学校との協力関係により、古い資料を提供してもらっている。
(我孫子)
毎年1,000人が団塊の世代として我孫子市に帰ってくる。シニア世代に働きかけ、NPOやコミュニティビジネスを応援している。関わってもらいながら理解者を増やしていくよう取り組んでいる。
(横浜)
寄贈本については、手間が掛かるので、中央図書館で受け入れることにしている。人気50位の本でも200人くらい予約が入るので、人気ベスト50の本については「持っている人は提供を!」とホームページで呼びかけている(コーディネーターが「いいアイデアだ」とコメント)。
このような内容で一日たっぷりかけた分科会でした。2日間の大会に参加しての最大の成果は、図書館という世界には、司書を中心として大変多くの従事者がいて、長年にわたり日夜業務に「勤しみ、研鑽を重ね、情報交換を行っているということを実感したことです。この世界は間口も広く、奥も深そうであり、まだその全体像は十分に見えていませんが、この大会にじっくり参加できたことでその一端を垣間見て実感することができました。非常に有益だったと思います。
図書館を取り巻く状況は、地方分権、情報化の進展、住民ニーズの多様化など、様々な要素が絡み合いながら激しく変化しており、その中で、ますます重要になる役割を果たしながら時代を引っ張っていくことが求められていると思います。しかしながら、一般的に図書館に対する認識や理解は必ずしも十分とは言えず、行財政改革の中で厳しい風に晒されているのが現状ではないでしょうか。
私は、図書館というものを、従来のような「本を借りたり」「調べものをしたり」するだけの場所ではなく、市民が主体的に豊かな生活と活動を展開していく上で最も重要で有益な施設として、また、自律的な地方自治の推進の重要なパートナーとして、そして、産業振興・コミュニティ形成の強力なサポーターとして、極めて重要な位置づけを与えて飛躍していく存在となるべきだと強く感じています。可能な限り、十分な予算を配分し、十分な専門職体制を整備していくべきだと思います。それだけの投資・配分をしても数倍、数十倍の効果が得られるのではないでしょうか。


最近のコメント