「コモンズと地域社会」
平成19年10月13日(土)、「コモンズと地域社会」というテーマで研究会が開催され、参加してきました。講演を行ったのは「コモンズと永続する地域社会」の著者、平竹耕三氏と、明海大学不動産学部の齋藤広子教授のお二人です。都市再生機構のEさんがもう何年も主宰し続けている「比較住宅政策研究会」という公開勉強会ですが、都市住宅学会の関東支部の行事にも位置づけられ、学会の助成金が少し出たようです。今回の報告は結構、アカデミックです。
研究会の要旨が次のように書かれていました。
「コモンズ」ということばは、「シェア=共有」という意味で広く理解したとき、土地政策、住宅政策、住宅計画(コーポラティブ、コレクティブなど)、コミュニティ、地域再生、市民参加型まちづくり、環境保全、非営利金融などすべての分野で共通項になり得る概念である。これまで社会学、民俗学、文化人類学等の研究テーマになってきたコモンズであるが、住宅計画や住宅政策等の分野では、コモンズだけを切り離して論じられた事例は少ない。コモンズを社会性・公共性(市民・自治体)から論じている平竹氏に対して、市場性や経済(不動産業界)の立場から論じている齋藤氏との比較によって、コモンズの可能性と限界を明らかにすると同時に、両者に共通する環境や資産管理の持続性という観点から、学際的なコモンズ論に発展させるように議論したい。
さて、最初の講師、平竹耕三氏ですが、「コモンズとしての地域空間 共用の住まいづくりをめざして」(コモンズ、2002年)、「コモンズと永続する地域社会」(日本評論社、2006年)といった著書がありますが、本職は京都市役所の職員です。龍谷大学大学院で修士論文「コモンズとしての地域空間」をまとめています。京都芸術工科大学特認教授も務める経済博士という顔も持っています。
わが国では、土地の所有権の自由度が強く、その制約が緩やかであるため、いわゆる「建築自由の原則」があります。そのために、地域のコミュニティが分断され、地域社会を衰退への追い込む事態を招き入れている、という現状認識からスタートしています。そして、平竹氏は「地域社会が永続性を保つためには、その基盤としての土地利用について、地域的にコントロールできる仕組みが不可欠である」と主張します。その具体的なアイデアとして「コモンズ」を位置づけようとしています。コモンズとは、平竹氏のレジュメによれば「土地を公有や地域所有とし、地域空間の管理を地域住民が主体的に行うもの」と定義することができそうです。平竹氏は、それ(コモンズ)が地域で豊かな人生を送れる制度的な保障につながると主張しています。そして、その際の問題意識として、次の3点を掲げています。
① 日本では住民一人ひとりが豊かさを実感しえない原因に、土地が利用価値よりも資産価値から評価される結果、地価が高く、人間の生活という観点から適正に利用されていない問題がある。
② 土地問題を解決し、住民一人ひとりが豊かな生活を回復するためには、規制緩和によるのではなく、土地を脱市場化して地域住民の生活や福祉の向上のために利用するシステムを確立していくことが必要である。
③ その具体的方法としては、土地あるいは空間を個人個人の所有や管理に分割せず、地域住民が共的に利用するコモンズとして、また、地域社会を、コモンズの地域管理を担い、コモンズを支える社会関係としての地域主体に再構成していくことが必要である。
さて、研究会の席上、平竹氏はこのような持論を分かりやすく説明するため、スライドで幾つかの事例を紹介してくれました。
京都の祇園と言えば、芸妓や舞妓のまちとして全国的に有名ですが、この京都市東山区祇園町南側は、学校法人八坂女紅場学園(やさか・にょこうば・がくえん)が地主の借地だそうです。200区画ほどに分割され、お茶屋、飲食店、住宅などに賃貸されていますが、借り主はまちづくり協議会を組織し、大家との間で町並みを守る合意書を結び、自主ルールにそって建物の概観デザインを決めてきたため、結果的に優れた景観と佇まいのある地区が維持保全されているのです。3.3haのエリア内の道路もすべて学校法人の所有だそうです。祇園町北側は個人の土地所有ですが、どこにでもあるような雑然とした歓楽街になってしまっており、北側と南側を対比すると、見事なまでの違いです。歴史的な経緯があるとは言え、土地を面的に押さえることによってまちづくりをここまで徹底的にコントロールできている事例があることに、本当に驚きました。我々は、都市計画規制や助成制度、あるいは自主的な協定などによって、一生懸命に良好なまちづくりを実現しようとしていますが、なかなかうまくいっていません。土地の所有権という「のど元」を押さえるだけでこんなに劇的に効果があるというのは、一種の「コロンブスの卵」のような気がしました。
その他の事例として、三重県松阪市殿町に現存する武家屋敷長屋「御城番屋敷」(ごじょう・ばんやしき)なども紹介されました。我がふるさとの隣町にもこんな地区があったのか!と、これまたびっくり。是非、現地を見に行かなければなりません。
まちづくりとか中心市街地活性化においては、土地の所有権にまで踏み込まなければダメだ、今までそこから逃げてきたからお金をいっぱい使いながらも何も成果を上げてきていない、という指摘を、最近耳にしています。核心を突いているかもしれないとは感じていましたが、今日のこの事例やコモンズ理論を聞いて、真実だと確信しました。是非、この問題は掘り下げなければなりません。そして、何らかの形で制度化するなり、実行に移すなりしていく必要があります。
この日の研究会、後半は齋藤広子氏の「現代社会におけるコモンズの形成と住環境マネジメント」というテーマの講演(内容は省略)、そしてそのあとは参加者との間の質疑応答でした。話題提供が素晴らしかったので、質疑は非常に活発でした。
翌日、主催者に送った感想メールを以下に添付しておきます。
「非常に中身の濃い、示唆に富む内容だったので、とてもあの時間だけでは消化・理解できませんでしたし、ディスカッションも序の口どまりだったようで惜しかったですね。私も発言の機会を頂きましたが、十分貢献できませんでした。
「コモンズ」について感じたことを少々。
住宅に着目したとき、その水準は「居住水準」で図ることが一般的であり、その中身は端的に言って「広さ」です。しかし、住宅の水準や価値、住み心地が「広さ」だけで表されるものでないことは、もう国民は気づいていることと思います。でも、それが何なのか共通認識になるには至っていません。では、住宅地に目を移したとき、その議論はもっと漠然としてきます。官製の「住環境水準」が無力なことは言うまでもありませんが、道路の広さ、公園面積、公共交通へのアクセスなど個別の指標は幾つかあるものの、そんな表層的なものではない、もっと本質的な「良さ」があるはず!それを(その一部か全部か分かりませんが)体現しているのが「コモンズ」であるように思われます。少なくとも、非常に豊かなヒントが埋蔵されていることは、どうも確かな気がします。
是非このテーマだから聞きたい!と念願して参加したわけではありませんでしたが、こりゃ大きなお土産をもらったなぁ、というのが帰り道での率直な感想です。これからの仕事や勉強を進めるに当たって、貴重なネタとして大切にしていきたいと思います。
あと、個人的には、平竹さんの著書の中に、京都以外の事例として三重県松阪市の事例が出ているようですが、実家の隣市なので、別途、関心を持ちたいと思っています。場合によっては、平竹さんに個別にお尋ねすることがあるかもしれませんので、その節は、連絡先などまた教えて下さい」。
それに対して、講師の平竹氏からご返事を頂きました。御城番屋敷に関する箇所だけ抜粋して紹介させて頂きます。
「松阪市の御城番屋敷は、1863(文久3)年に建てられていますから、本当に様々な経過を経て今があるという、生きた教材としての素晴らしい知恵が包蔵されていると思います。村主さんの故郷のお近くということでしたら、ぜひ関心を持ってあげていただきたいと思います」。


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