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2007年1月29日 (月)

熊本市の自治基本条例案が廃案に!?(その1)

 「九州・沖縄情報」という名前のブログで、熊本市で自治基本条例案が廃案になったことを紹介していました。URLは次のとおりです。http://kyuusyuu.jugem.jp/?eid=251
 このブログ、「イベント、ニュース、お得な情報をお届け。」というサブタイトル(コメント?)がついており、開設者がよく分からないのですが、内容が非常にまともなので、全文引用することにしました。
(以下、引用)
 熊本市の自治基本条例案を継続審議している「地方自治の推進に関する調査特別委員会」(紫垣正良委員長)が24日開かれたが、意見がまとまらず条例案は審議未了で事実上の廃案になった。3月の定例議会終了時点で廃案が確定する。ただ同委員会は、4月の市議改選後にあらためて条例制定を目指すことも申し合わせた。
 特別委はこの日、正副委員長が示した修正素案を審議。鈴木弘副委員長は、執行部原案が掲げた「参画・協働の原則」を修正素案で削除したことについて「参画・協働という言葉で市民の意見をコントロールする危険性がある」と説明。「よりよい条例にするため3年ごとに見直す」とする方針も示した。
 委員からは「参画・協働は市政の根幹で重要」などとする修正素案への反対意見と、「参画・協働は認識の度合いが個々で違う。盛り込むのは危険」などとする賛成意見が出され、議論は平行線のままだった。
 特別委の開催はこの日が最後で、市議は4月に改選されるため、条例案は事実上の廃案。委員会として「執行部、市民、議会の3者で話し合うシステムを構築し条例制定を目指す」との申し合わせを議事録に残し、改選後の議会に議論を託した。
 幸山市長は「(廃案は)大変残念だが市民協働の歩みは着実に続けていく。新たな形での審議でできるだけ早い時期の制定を目指す」と述べた。

■記者席
 特別委員会で2年にわたって審議された熊本市の自治基本条例案が24日、審議未了で事実上の廃案になった。
 市民、議会、行政が対等な立場でまちづくりを行うと規定する自治基本条例は、市政への要望や相談の窓口役となってきた議員の役割を狭める恐れがある。「おれたちは必要ないと言われているようなものだ」と、ある議員は本音の反対理由を語っていた。
 だが、自治体をめぐる財政状況は厳しく、ボランティアや特定非営利活動法人(NPO法人)など市民の力を借りて何とか行政運営をしている状態。そうした市民の参画を保障し、意見を反映させるシステムの構築と、議会や議員の必要性とは別の議論ではないだろうか。
 「口利き役」としての議員の役割に、もはや市民のコンセンサスはない。それよりも、高度な政策論争や立案にこそ期待が集まっている。条例をめぐる議論は改選後の議会に持ち越されたが、議員や議会の在り方に対する問いは突きつけられたままだ。(熊本総局・久保田かおり)

(引用、終わり)

 熊本市は、熊本県の県庁所在都市で(当たり前!)、人口約67万人の九州の中でも代表的な都市の一つです。市長は昭和40年生まれと比較的若い方で、市民参加、市民協働を重要視して市政を運営してこられたようです。
 市民と行政が協働で自治基本条例の素案づくりに取り組む「協働のまちづくりをすすめる市民会議」を平成15年にスタートし、市民会議がまとめた条例素案をもとに、市が条例案を平成17年3月に議会に提出しました。それが今回事実上の廃案になったとのこと。その理由、要因を調べてみようと思いますので、分かったらまたここでご紹介します。
 ただ、一つだけ言えることは、自治基本条例が「議員の役割を狭める恐れがある」との記述はにわかに賛成しかねますが、仮に百歩譲って当たっているとしても、自立した地方自治を推進していく上で必要なルールを定めた条例だとすれば、逆に「議員などあまりいらない」ことになりはしないでしょうか。必要不可欠で重要な「議員」の存在を不当に脅かす条例であるならば、その部分を改めるか、そのことを理由に否決すればよいと思います。
 真相を究明することで学ぶことがあるかもしれない事例ですね。

2006年11月30日 (木)

流山市の自治基本条例について(その3)

 連続3週目の11月25日は市民協議会の主催による「市民フォーラム」でした。これまで実施してきた市民協議会の活動状況を報告するとともに、多くの市民に自治基本条例への理解を広げることが目的です。主なプログラムは、代表による協議会の活動報告、今年の夏休みに全市の小学校5、6年生、中学校1年生を対象に募集した作文の優秀賞受賞作品の披露、(財)地方自治総合研究所の辻山幸宣氏による講演、市長も交えての対話の時間(Q&A)などでした。
 会場は南流山センターという公民館のような施設。その大会議室にパイプ椅子が並べられました。そこに150名から200名の市民が参加し、約3時間のプログラムでした。
 まず最初に受賞した小学生が自ら作文を披露しました(プログラム後半で中学生も同じように作文を披露しました)。「こんな流山にしたい」というテーマで、全部で371件の応募があったそうです。「パブリックコメント」のような形で一般市民の意見を募集することはありますが、小中学生の意見を聞くことはあまりないと思います。小中学生の作文ですから、実際のところ、施策として取り上げるに値する提案というのはほとんどありません。しかしながら、何というのでしょうか、子どもらしい素直で純粋な目線で実に新鮮なとらえ方、考え方をしています。そういう意味で、こちらの視野を広げてくれる意外な効果がありました。子どもも市民です。子どもやお年寄りも含めた幅広い市民すべてを対象に考えていかなければならないわけです。
 市民協議会の代表、Eさんによる「自治市民協議会の取り組み」の発表は、これまでのPI(対話集会)開催と条例原案たたき台作成に関する活動状況をパワーポイントで紹介するものでした。先週の予行演習で見せて頂いていましたが、その後また改善を施したようでした。協議会が一生懸命に取り組んでいる状況がよく理解されたのではないかと思いました。
 続いて、辻山幸宣氏による「自治基本条例を理解するために」と題した講演です。非常に分かりやすく丁寧な話し口でした。
まず、自治体の成り立ちから解きほぐし、明治維新までは様々なことを自分たちのちからで治めていた、という話から入りました。「自分たちのちから」とは、コミュニティの共同作業+家族の協力+近隣の相互協力のことです
その「ちから」が弱くなってきたので、「寄合」で話し合い、「雇傭人」に仕事をさせるようになりました。それが自治体の原型です(寄合=議会、雇傭人=行政)。
明治政府が近代国家を樹立した際、この自治体政府(市町村)を国の統治する地方行政機関として位置付け、市民から切り離しました。それから約120年、基本的にそのままの形で(地方分権一括法制定の)西暦2000年まできます。「やってくれ」という市民と「やってやる」という役所、という関係でした。様々な社会の変化とそれを踏まえた地方分権改革により、今、再び自治対政府が市民の手に戻ってこようとしています。そのあたりの話が非常に分かりやすく語られました。世の中のことを「公」←→「私」という軸で並べると、①主権者、②市民の手による公共、③消費者、隣人という風に三つに区分できます。その①と②を治める組織と運営について定めるのが「自治基本条例」だというわけです。
既に100近い自治体で自治基本条例が作られているが、作ってよかったというまちはまだ出てきていない。大抵は例規集に綴じ込んで終わりになっている。条例素案を作る段階からのPIは基本的に必要なことだ。そういう意味で流山市の取り組みは、すでに半分は達成したようなものだ。……このようなお話でした。
休憩をはさんで、中学生の作文発表、市民からのメッセージと続き、最後は、代表のE氏、辻山氏、井崎市長が壇上に上がり、参加者からの質問に答える「対話の時間」となりました。質疑応答を一つだけ紹介します。
質問:他の自治体にいい条例の事例があるならそれを真似ればいいのであって、流山の独自性にこだわる必要はないのではないか。
辻山氏:そのとおりだ。ただし、真似して優れた条例を作っても、ファイルされて終わり、だろう。どうするかの判断は皆さんにかかっている。協議会でよく議論してはどうか。

 さて、この市民フォーラム全体の感想です。率直に言うと、協議会のメンバーが口コミで熱心に呼び掛けて何とか200名ほどが集まった、という感じであって、数十回開催したPIの効果で多くの市民が関心や問題意識を持ち、自主的に今回の市民フォーラムに参加したという形には、まだ結びついていないように思われました。
 思うに、それは「自治基本条例」というものの「手応えの弱さ」(条例を制定しても実感としては何も変わらない、ということ)がブレーキになっているのではないでしょうか。
 そういう意味で、確かに理屈の上では(理想的には)、まず自治基本条例が必要なんでしょうけど、現実的な戦略としては、もっと具体的で分かりやすい市民が参加する形、一緒に考える機会を先行して提供し、その実体験を通じて機運を盛り上げることが重要であり、その上で、それを自治基本条例づくりに結びつけていくことを真剣に考えるべきなのかもしれない、と思いました。言い換えると、何よりもまず自治基本条例が必要だ、作るべきだと考える市長や協議会の「熱き思い」と、多くの一般市民の認識の間には乖離があり、うまく市民をインボルブメント(巻き込み)できればいいのでしょうけど、失敗すると独り相撲に終わってしまうしまう危険性があります。そうならないような冷静な判断が必要です。
 その点を思うに、身の回りレベル、コミュニティベースでの気軽で身近な住民参加を「準備運動」のように薄く広く展開し、まず、非常に多くの市民が「参加している」という状況、客観的事実を作ります。その次の段階で、参加者に条例の必要性や意義を理解してもらい、それを土台として、条例づくりへの参加や関与を呼び掛ける、という三段ロケット方式で行ってはどうでしょうか。そこを一段で一気に宇宙に飛ばそうとするから無理があるように思われます。別の見方をすれば、条例ができてからの推進体制を整備するためにも、この三段ロケット方式で幅広く市民を巻き込み、立ち上がって頂いておくことが効果的ではないか、不可欠なのではないかと思われます。
 このように考えると、私が以前から考えていた「自治基本条例づくりは、本格的な市民参画の形で時間をかけて取り組むべき」という考え方については、間違いとは言えないものの愚直な発想であって、もう少し戦略的な取り組みが必要なのかもしれません。引き続き検討していく必要がありそうです。

2006年11月27日 (月)

流山市の自治基本条例について(その2)

 続いて次の週、11月18日の午前、今度は市民協議会の全体会議が行われました。来週(11月25日)の市民フォーラムには是非参加しようと思っていたこともあり、(午前9:30開始のため)早朝から家を出ないといけないこの日の会議を傍聴するのはやめとこうかなと思っていたのですが、先週のPIを傍聴した際、顔見知りになったコンサルの方と市役所の担当者Tさんから是非と誘われたため、結局傍聴しに行くことになりました。ただし、この全体会議はメンバー外の傍聴はOKと宣伝されており、私の他に2名の方が傍聴に来ていました。
 15回目となるメンバー同士の会議でしたので、会議はスムーズに進みました。光栄にも、私を含め傍聴者もメンバーに対して紹介して頂きました。会議の主な内容は、来週開催する「市民フォーラム」の準備や当日の段取りでした。ロジ関係は部外者の私には関係ないし興味もありませんでしたが、プログラムの中で代表のEさんがパワーポイントを使って「自治自民協議会の取り組み」を紹介することになっており、予行演習風にやってみせてメンバーの意見を聞きました。説明内容は、協議会が今取り組んでいる「PI活動」と「作成中の条例原案たたき台」についてでした。それらを聞きつつ、私も気づいた点をメモしていましたが、最後に「傍聴の方の意見も聞いてみましょう」とマイクを振られました。発言を遠慮するか無難な感想に止めておくべきだったのかもしれませんが、思ったことを遠慮無く言ってしまうのが私の性分でして、「初めて話を聞く一般参加者にとっては、PI活動と原案たたき台の関係・つながりが分かりにくいのではないか」「原案たたき台の説明が、『もう条例の原案はほぼ出来ているので、それを理解して下さい、関心を持って下さい』というメッセージとして伝わるかもしれないが、それでよいのか」「活動内容の説明だけでなく、協議会から市民へのメッセージや期待も盛り込んだほうがよいのでは」「説明用のパワーポイントはたぶん市役所で作ったものと思うが、市民向けには堅すぎる」など、ちょっと無遠慮にずけずけ発言してしまいました。多くのメンバーがうなずいてくれているようだったので、それなりに賛同が得られたかなあと思いましたが、終わってから何人かのメンバーから「いいことを言ってくれた」「そのとおりだ」と声を掛けられたので、ホッとしました。
 会議の後半は、原案起草部会から、原案たたき台の検討作業進捗状況の報告でした。配付資料の中には「たたき台第二次案」と称する条例案が添付されており、一見して完成形に近いような充実したものだったので、作業が相当進んでいる印象を受けました。この作業をもっぱら担当したのはIsさんという方で、自己紹介によれば、ある県庁で政策法務の仕事に20年余従事していたことがあり、民間で条例作りのソフトウエアを開発する仕事もしたことのある人物とのことであり、なるほどそういうキャリアの人でなければこういう高度な作業はできないだろうと納得しました。そういう意味でこの人物がメンバーに加わっていることが流山市の条例作りに大きな意味を持つのかなあと思う反面、突出した能力と知識を持った一人がいると、チームワークがうまく維持できるのだろうか、仲間との協働がうまくいくのだろうか、なかなか難しそうだ、とも感じました。Isさんが「これはあくまでたたき台であり、これから1条ずつ読み込んでいく必要がある」と説明し、それを受ける形でE代表が「今日の午後、部会でじっくり検討してほしい。まだ内部資料なので外には出さないように」と発言。それで終わるかと思っていたら、その後意外な展開を見せました。別のメンバー(Ikさん)が「このたたき台は今日の全体会議では出さないという話ではなかったのか」とクレームをつけたのです(おやや?)。E代表が「確かにそういう話もあったが、これはあくまでたたき台であって参考までに配布して状況を説明してもらっただけ。今日は議論はしない」と回答しましたが、さらに別のメンバーが「今の代表の回答は答えになっていないと思う」と批判。険悪な雰囲気には至らないものの、やや緊迫した空気になりました。確かに、原案起草部会の報告メモをよく読むと、(最初にクレームを付けた)Ikさんも私案を部会で説明しているようでした。代表の話からは、Ik私案もかなりのボリュームのある労作のように伺われました。要するに、条例たたき台をフル規格で作る能力のあるメンバーが一人ではなく二人いるようなのです。このお二人の関係やお二人を含むメンバー間の人間関係は全く不明ですし、以前の会議でどのような話し合い、決まり事があったのか分かりませんので、まったく何とも言えませんが、邪推するならば、単なる「認識のずれ」・「ボタンの掛け違い」に過ぎないのか、はたまた「主導権争い」・「派閥化」の動きがあるのか、さてさていずれにしても穏やかではない、という雰囲気になりました。言いたいことを忌憚無く言い合うという雰囲気にまでこの協議会が成熟したという見方も成り立つかもしれませんが、それにしても早い内に解決しておくことが大切だなあと思われました。E代表は「まあ、午後の部会で徹底的に話し合ってくれや」と言ってその場を収めました。
 最後に、代表からの提案という手書きの一枚紙が追加で配られ、協議会のミッションである「条例素案」の市長への提出を来年の3月から8月に延期したいという提案がなされました。これは非常に大きな変更です。併せて、条例案の議会上程も9月から12月に変更することが書かれており、市の担当課とは既に調整済のようでした。そのこともあり、非常に重要な変更の提案は無言のうちにメンバーの了解が得られました。
 さて、全体を通じての印象としては、メンバー間における議論する土俵というか空気のようなものが、既にかなり育っている(熟している)ことを感じました。これは素晴らしいことです。また、E会長のお人柄と協議会の舵取りの絶妙さにも感心しました。なかなかのものだと思いました。市民主体で取り組むということは、単に意欲的・積極的な市民が何十人か集まればわいわいとできるというものではないですよね。組織として活動を展開して、組織として成果を出すためには、リーダー、サブリーダー、特定の課題や仕事の担当者など、能力や適性に応じた役割分担とチームワークが不可欠です。それを初対面の人たちが自主的な話し合いで決めていかなければならないのです。ある役割に最適任の人材が必ずいるとは限りません。自分の能力や希望を主張する人もいれば控えめな人もいるでしょう。学校や会社のような競争社会ではなく、善意と自主のボランティアで集った人たちですから、自然と最適な形に収まっていくような気もしますが、必ずしも確信は持てません。そういう意味で、流山のこの協議会は、なかなかいい雰囲気で育っているように思われます。条例案たたき台の作成をめぐる今回のぎくしゃくも懸念するに及ばず早晩収束するでしょう。このように、市民主体の協議会活動に臨場感あふれる形で接することができました。非常にいい経験でした。
 隣にすわっていたオブザーバーの方はPIについて自主的に研究しているということで、既に何回も流山の協議会活動を観察しているようでした。流山のこの活動は素晴らしいとしきりに誉めていました。また一人お知り合いが増えました。自主的に活動を広げると、仕事上では得られない人脈が広がるような気がします。嬉しいことです。

2006年11月25日 (土)

流山市の自治基本条例について(その1)

 流山市は、千葉県の北西部に位置する人口15万人のやや小さなまちです。1年前に開通した鉄道新線「つくばエクスプレス」の新駅が3つもできて、それに伴い様々な開発プロジェクトが急テンポで進められているホットなまちでもあります。
 市長の井崎義治氏は、昭和29年生まれの52歳。立正大学の地理学科を出て国内外のコンサルタント数社に勤務したのち、英国国立ウェールズ大学の教授を経て平成15年に流山市長に就任したという、かなり変わった経歴の持ち主です。
 この流山市で「自治基本条例」制定への取り組みが始まっています。市民との協働によって進めたいとの考えから、公募市民を中心とした「市民協議会」を設置し、PI(パブリック・インボルブメント)を活用してより多くの市民の意見を聞いて、条例の原案を作ることになっています。「流山市自治基本条例策定市民協議会」は平成18年4月に発足し、市との間で「自治基本条例素案の策定に関する協定」を締結しました。協定によれば、協議会は平成19年3月末までに自治基本条例原案を策定し、市長に提出することになっています。
 流山市は、自治体学会の大会などで、ロビーに「自治始めます」という、分かりやすく目立つ「のぼり」を出していたのを私も目にはしていましたが、特段関心を持たずにきました。最近、この市民協議会が熱心に活動しているとの情報が入ったので調べてみたら、かなり精力的にPI活動を展開するとともに、近々「市民フォーラム」を開催する予定だということが分かったので、可能な範囲でリサーチしてみようかと思いました。我が家から2時間ほどかかるので決して近くはありませんが、行けなくもない微妙な距離です。先週、今週、そして来週と3週連続で流山に通い、PI集会、市民協議会の全体会議、市民フォーラムを傍聴させてもらっており、今回はその中間報告です。
 まず、PI(対話集会)ですが、この協議会では週に5回程度のハイペースで開催していたのですが、そのうち週末の昼間に行われる、ある中学校PTAへのPIを見学させてもらいました。市役所の担当課にいきなり電話をかけて傍聴させてほしいとお願いしたところ、市役所と協議会はOKだが一応PTAの会長に了解を取ってから、と言われたものの結局OKとなり、お邪魔して傍聴させて頂いてきました。協議会からは代表など4名、PTAの方は何かの会議に引き続きのようでしたが20名くらいが参加されました。協議会としても、PTAへのPIはこれが初めてとのことでした。協議会から「自治基本条例とは」、「自治基本条例のイメージ」などを説明したあと、意見交換が行われました。皮切りにPTAの会長さんが発言されましたが、この方、実は市の職員だそうで、上手な話しぶりで前向きな雰囲気を醸し出していました。その後はお母さまが何人か発言されましたが、生活感覚に基づく苦情や体験談ばかりで、必ずしも自治基本条例に焦点が当たっているとは言えない意見交換でした。協議会の方々はやや物足りない手応えだったかもしれませんが、まあこんなものでしょう。最後に発言されたお母さまは所沢から引っ越してきた方で、所沢でダイオキシン騒ぎが起きたとき、当初逃げの姿勢だった所沢市を市民の力で動かしたことを身近に見聞きしてきた経験から、流山市のこの取り組みは非常に頼もしく映ったようで「是非頑張って下さい!」と激励し、協議会の方々を喜ばせていました。
 なお、市から委託を受けて自治基本条例づくりを手伝っているコンサルタントが、実は先日私が参加した世田谷区内のまちづくりサロンの関係者でもあり、そのあと所長と何回かメールの交換をしていたコンサルだったので、驚きました。また、市の担当者が私と同じ建築職で、この仕事をする前は建築確認の仕事を担当していたと聞き、親近感を覚えました。そういうことで、この日は、PIの現場を実際に見聞できたという、私にとっては貴重な体験でした。

2006年11月 8日 (水)

大和市の「市民自治区」に関する取り組み(その2)

「市民自治区」とは?

 地方分権が進む中、大和市が自立した自治体として存続し、大和市民が豊かに暮らすことができるよう、地方自治に取り組む必要がある、という考え方がベースにあり、そのための新しい地域自治の形が「市民自治区」だそうです。 大和市独自の地域自治のシステムとの触れ込みですが、てっきり大和市自慢の「自治基本条例」の中に明確に位置付けられているのかと思いきや、意外にも条例には「市民自治区」という言葉が一箇所も出てきません。あれれ、じゃあどこに根拠があるのが不思議に思われました。と言うのも、将来的に「市民自治区設置条例」を定める予定だと聞いたので、それなら「市民自治区」は単なるアイデアや法的な根拠のない施策ではないだろうと思われたからです。 厳密に探索してみると、やっと見つかりました。第7次大和市総合計画を策定するために、大和市が「大和市みんなが使える総合計画を考える会」を設置しましたが、その「考える会」に市民自治区構築に向けた検討を行うために「市民自治区検討会議」が設置されたのが源のようです。自治基本条例が制定されたのが平成16年10月ですが、総合計画の策定作業は平成15年度中から始まっており、「考える会」は平成15年9月に発足しています。つまり、「市民自治区」という考え方とその検討は、自治基本条例制定より先だったという訳です。それにしても、その後制定された自治基本条例にこの「市民自治区」は、さすがに位置付けられなかったんですねぇ。 それはともかく、「市民自治区検討会議」で平成16年11月に取りまとめられた「市民自治区の骨子」は、次のような内容です。

1.目的

 地域自治の確立、地域社会の活性化のために、地域による公共サービスの提供、住民の自己実現の場の創出、地域意向の市政への的確な反映を行い、あわせて地域と市役所の役割分担により行政経営の効率化を図る。(さらに「地域自治の確立」につなげていく)。

2.成立要件

 地域自治が可能な一定規模の広がりやまとまりを持ち、地域住民の意向を反映するための民主的な組織運営が行われていること。また、地域の公共的団体やNPO、学校などと連携していること。

3.区割り

 自治会連絡協議会の理事選出区をベースとした概ね10地区(1地区あたり約2万人)とする。(参考)市内に自治会は約160、理事選出区は12ある。

4.組織形態

 各分野の活動組織の代表者及び地域からの公募市民などで構成された市民自治区の意思決定機関(委員会または評議会)と、運営をコーディネートする事務局を基本として構成する予定。

5.構築方法

 市民自治区の構築にあたっては、一律に全市域を網羅するのではなく、地域の自主性を尊重して、できる地域から順次構築を進める。

6.主な役割

 総合計画(実施計画)に地域事業を登載するための地域計画の策定とそれに基づく事業実施、地域情報の提供、地域の話し合いの場づくりなど。

7.市民自治区のタイプ

「提案型」

 地域計画に基づき、市民自治区が事業やその優先順位、実施主体を市に提案。市は提案に基づいて実施計画への登載や予算措置を行う。

「決定・執行型」

 地域計画に基づき、一定枠の予算を議会の議決を経て市民自治区に配分。事業の決定、予算執行(事業実施)まですべてを市民自治区が行う。

8.今後のスケジュール

 平成18年度は市民自治区のモデル地区の指定を行い、試行的に市民自治区を運営することで課題を洗い出し、制度に反映する。平成19年度中に市民自治区の制度化(条例化)を行い、平成22年度までに提案型の自民自治区を全市に広げることを目標とする。

 現在、大和市では、市民自治区をつくるきっかけづくりとして、「やまと地域の底力事業」を行っています(TV番組のタイトルのようですが)。

○やまと地域の底力事業 ~地域が行う公共的な事業に対する支援

・はじめの一歩型事業

 →平成18年度は8地域で実施中

   対象:2つ以上の地域活動団体(対象人口は概ね1,500人以上) 

・市民自治区準備型事業

→平成18年度は2地域で実施中

   対象:活動目的の異なる複数の団体(対象人口は概ね1万人以上)

 その底力事業を経て、次は「市民自治区モデル地区」の指定です。現在、2地区が指定を受けています。モデル地区とは、試行的に市民自治区を運営することで課題を洗い出し、制度に反映するものです。

○渋谷西地区(H18.8.1指定)

 商店街の空き店舗に「市民自治区モデル地区事務所」を設置(H18.9.30)。運営は自治会や地区社会福祉協議会などから選出された運営委員で構成する運営協議会が行う。

 ボランティアが常駐し、住民の困りごとを聞いたり、お年寄りの買い物やゴミ出しを手伝ったりする。地元の話題を盛り込んだ広報誌も発行する予定。事務所を住民に開放し、意見交換しながら今後の地域のあり方を考えていく。

 モデル地区の指定までの取り組みとしては、平成16年度から地域の底力事業として防犯や高齢者支援、環境保全などの事業を実施。平成17年度には4回のワークショップを開催し、地域の課題やその解決のための事業、市民自治区の組織などについて話し合った。

○南林間地区(第2号)

 平成16年度は地域の底力事業(はじめの一歩型)として、学童通学路安全確保(登下校時の見守り、声掛け)や防犯パトロールを実施。平成17年度は同事業(市民自治区準備型)として、女性による防災・防犯グループの設立、防災訓練、ワークショップ開催を実施。平成18年度、モデル地区指定に向けてまちづくり協議会で運営組織、事務局、運営規約等を検討したのち、10月1日にモデル地区の指定を受ける。 地域説明会の開催

 このように、各地区で順次、市民自治区に向けた取組が進んでいるわけですが、いずれ全市での取り組みを実現するため、地域説明会が10月25日~11月9日に12回(各2時間)と、精力的に開催されています。このうちのひとつ、10月28日(土)午後2時から柳橋コミュニティセンターでの説明会に、市民でもないのに参加してきました(もちろん、市役所職員の方にちゃんと了解を頂きました)。

 市役所からは、企画部長さんと担当課である企画政策課の課長さんほか総勢5名でした。参加者は18名でした(高齢の男性14名、中高年女性が4名)。参加した市民は特別に熱心という風にも見えず、さりとてイヤイヤ義務で出てきたという雰囲気でもなく、何となく市の説明会に参加するのは慣れているという印象を受けました。

 市の説明は、部長の挨拶のあと、「渋谷西モデル地区とやまと地域の底力事業」というビデオの上映、市民自治区の説明、式次第の紙に添付したポストイットを使った「市民自治区への意見、質問」の募集という風に進みました。このポストイットを使って意見・質問を受け付ける方法は、出す側は気軽に質問や意見を出せるし、受け取った方は出された質問・意見を模造紙に貼って分類・グルーピングしながら整理することができます。なかなかグッドアイデアだと思いました。休憩の間に手際よくその整理作業を行い、後半の段取りも打ち合わせしたようで、再開後は主な意見・質問に対して、部長なり課長なり担当が分担しながら次々と答えていきました。場数を踏んでいるからか、非常に手慣れている印象を受けました。また、内容が市民と対立・衝突するものではないものの、非常にフランクで和やかな雰囲気だったことも印象深いものがありました。

 紙に書いて出す形だったので、かなりの数の意見・質問に回答した割には、案外、盛り上がったという感じがしませんでした(まあ、仕方ありませんが)。従って、参加者側が納得・満足したのか不完全燃焼だったのか、イマイチつかみかねました。質問の内容は、まあ非常に平凡・ありふれたものが大方でした。そもそも論で否定的な意見とか、さっぱり分からないというような足を引っ張る意見はなかったので、既にある程度浸透しているのかな?とも思いましたが、逆に、高度な質問、意欲的な意見というのも特段出ませんでしたね。あまりに凡庸なやり取りが意外と言えば意外でした。定刻になったら、司会者が「今晩も○○地区でやりますから、聞き足りない人はそこにお越し下さい」と言って、サクッと終了しました。

 そんな感じだったので、感想が書きにくいのですが、大ブームというわけではないが、静かに着実に取り組みが浸透、進展しているような感じを受けました。やはり、住民参加に関する長年の取り組みの成果として、住民の反応は「良好」と言えるのでしょう。「隠し味」的な大和市の財産だと思います。このベースがない自治体では、簡単なこと、基礎的なことからつまづいたり反対されたりするのかもしれませんね。

2006年11月 3日 (金)

大和市の「市民自治区」に関する取り組み(その1)

 大和市土屋市長は、地方分権の推進に非常に熱心です。そして、「大和市環境を守り育てる基本条例」(平成10年3月制定)や「大和市新しい公共を創造する市民活動推進条例」(平成14年6月制定)等の条例の策定に市民参加を図り、また、部門別の計画策定への市民参加や個別の施策における市民との協働などに積極的に取り組んでおり、行政への市民参加度調査では上位に位置する自治体となっています。
 平成16年度の施政方針演説において土屋市長は、住民自治の「実践」として、ひとつには、(仮称)市民活動センターの設置と市民事業を支援するための基金によって「テーマ型コミュニティ」の充実を図ること、もうひとつは「エリア型コミュニティ」として「市民自治区」の構築に取り組む考えを示しています。この横糸(テーマ型)・縦糸(エリア型)を編み合わせる形でコミュニティの充実を図り、住民自治を確立していこうという考え方は、参考になります。
 そして、「市民自治区」については、市内をおおむね10地区程度に分けることを想定しており、各自治区では、自治会や地区社会福祉協議会、PTAなどの各種団体が連携して、地域での問題を解決するために、みずから事業を展開していくこと、市民自治区の構築については全市域一律に進めるのではなく、地域の課題や実情に応じて可能なところから進めていきたいこと、その具体的なあり方や仕組みについては市民や市民団体の代表、学識経験者からなる「市民自治区検討会議」において研究していくこと、などとしています。土屋市長の構想としては、やがて市内全域を網羅する「市民自治区」がそれぞれ権限、財源を持ち、地域の課題をみずから解決できる能力を獲得し、主体的に事業を行う組織として機能することで、地域の自立が実現することを考えているとのことでした。
 1年後(平成17年度)の施政方針演説を聞くと、市民活動センターが既にオープンし、自治基本条例が4月に施行されること、(仮称)市民参加条例の制定に着手すること、(仮称)住民投票条例の制定も視野に入れていること、この年度に「第7次総合計画」を策定することなどが紹介されており、着々と自治の仕組み作りが進んでいることが伺われます。「市民自治区」についても、構想に着手したことを紹介しています。そして、土屋市長は次のように述べています。
「“真の市民自治の実現”を目指す本市では、既に新しい公共が息吹き、花を咲かせ、実を結ぼうとするところまで来ております。理想とする公共世界をうたった「大和市自治基本条例」、その実現に向けた道しるべとなる「第7次大和市総合計画」、そして実践としての「協働を柱とした市民活動」、「市民自治区の構築」が、いわば我が大和市としての公共哲学の理念と実践の体系であり、これが公共の一つのモデルとして今後普遍化されていくものと考えます」。
 そして、今年(平成18年度)の姿勢方針演説では、市民自治区について次のように述べています。
地方分権時代にあって、本市の自治の象徴となる「市民自治区」が今芽吹きつつあります。これまで取り組んできたやまと地域の底力事業は「やる気」という種を育てるものでございました。現在底力事業において市民自治区準備型事業に取り組む地区のうち、新年度におきましては2地区程度「市民自治区モデル地区」としてステップアップしていただき、地域の皆様の手で地域の計画を作成するなど、地域で抱えている課題をみずから解決する地域自治の礎を築いてまいります。また、やまと地域の底力事業の実施地域を拡大し、その足がかりを全市に広げていくとともに、モデル地区での実践を通じて得た課題を踏まえ、「(仮称)市民自治区推進検討会議」を中心に議論を重ねていただき、さらなる制度の充実を図ってまいります」。
 全国的にも非常にユニークな取り組みである「市民自治区」について、もう少し掘り下げて見てみたいと思います。 

2006年10月31日 (火)

大和市の自治基本条例の制定プロセスを見る

自治基本条例」に関してニセコ町とともに注目すべき自治体として、神奈川県の大和市が挙げられます。
 大和市は、これまでも「市民参加」「協働」「住民自治」に積極的に取り組んできた自治体です。市長の土屋侯保氏は、そういうことを踏まえて、説得力を持って「わたしたちのまちの憲法」と呼べるよう、制定過程からふさわしい手法を用いて取り組むべき条例だと考えました。そして、その主役である市民がつくるという点を最も大事にすべきと考えて、これまでよりさらに一歩踏み込んだ市民中心の策定組織をつくることとして、「大和市自治基本条例をつくる会」が立ち上げられました。そして、「市民がつくる」ということの偽りのない実行を目指すため、条例素案はまったく白紙の状態から「つくる会」につくってもらうこととしました。
 なお、土屋市長が最初に職員に指示したことは「市民の市民による条例素案づくり」と「他の自治体のものを参考にしない(先進市視察などもっての外)」の二点だったそうです。ちょっとユニークな考えを持つ面白い市長さんです。
 平成14年8月、「つくる会」に参加する市民が募集されました。事務局では「集まらないのではないか」「もしたくさん応募があったらどうしようか」などと思い悩んだようですが、結果的に35名の市民から参加の申込みがありました。人数は丁度よかったのですが、男性が29名と多くなり、年代的にも50代、60代にやや偏っているという点がやや玉にきず、でした。アドバイザー的な存在として学識経験者メンバーが一人、そして、職員枠を設けて市職員も同じ土俵で参加することになり、公募と推薦を組み合わせ、5名の職員が参加することになりました。その他に会議進行役としてファシリテーターが置かれました。つくる会のミッションは、当然のことながら「大和市自治基本条例(仮称)の素案を作り市長に提案する」ことです。
 平成14年10月26日、つくる会の第1回全体会議が開催され、自治基本条例制定に向けた取組みが正式にスタートしました。序盤は、市長から条例についての考えや希望を聞いたり、勉強会を重ねたりしました。動き出して間もなく、つくる会の活動スケジュールや運営方法等を企画・調整する「運営委員会」や、全体会議での議論を整理したり新たな論点を提示するような役割を果たす「ワーキンググループ」が組織され、また、テーマやPIの対象ごとに「担当チーム」が編成されました。
 PIとは「パブリック・インボルブメント」のことです。あまり馴染みのない用語ですが、「市民・民衆・公衆を巻き込む・熱中させる・含む」という意味です。つくる会では、市民の理解を助けるため「計画等の策定にあたり、広く市民の意見を聞き、計画に反映する市民参加の手法。「案」をつくる段階からの参加、そして、単なる意見表明に留まらず市民相互の議論、合意形成までをも視野に入れる点が特徴」などという説明を加えたりしていました。似た言葉に「パブリック・コメント」という言葉があり、こちらの方がよく聞かれるかと思いますが、単に「聞く」「意見を募集する」という姿勢であり、土屋市長は「パブリック・コメントではあまり意味がない」と言っていました。PIに最もこだわったのは、実は市長だったのです。
 PIをやると言っても、そのための材料がなければやりようがありません。なかなか意見交換の材料がまとまらないことに焦りも出ていましたが、初のPI活動が6月後半と決まり、それまでに何とか「市民討議用資料・自治基本条例度案づくりで検討中の項目」がまとまりました。最初の意見交換会は平成15年6月24日、市内の福祉関連NPO法人等の関係者が参加して開催されました。メンバーは相当気合いが入っていたようですが、メンバーの参加人数の方が多いという少し寂しいスタートではありました。これを皮切りに、自治会、青少年、市民活動団体との意見交換会、市民なら誰でも参加できる「市民キャラバン」、会派ごとの議会説明会など、11月までに全部で37回ものPIが開催されました。回数としてはかなり多いですよね。しかも、行政ではなく、つくる会の自主的な主催ですから、よくそれだけの回数をこなしたものだと思います。
 PI活動に参加してくれた方から「条文の形で具体的にイメージできないと意見を出しにくい」という意見が多かったため、今度は「自治基本条例のたたき台」の作成作業に取り掛かります。
 このように、市民メンバーが自分たちで作成した資料や条例素案を自分たちで説明し、参加した市民から出された質問や意見に自分たちで受け答えするという、正真正銘の「市民vs市民のやり取りが行われたことが、非常に新鮮です。これまでほとんど見ることのできなかった形ではないでしょうか。まさに「市民自治」の姿ではないかと思います。 
 たたき台を再びPIにより広く意見を募り、出された意見を集約、整理して条例素案に反映させていく作業は、ボランティアの市民がよくやったものだと感心するほど膨大なエネルギーが投入されました。市役所の職員休養室に泊まり込んでの「合宿」会議まで開催されました。
 そのような努力の末、平成16年1月26日、「自治基本条例素案のたたき台」が発表されました。特徴的な点としては、「市民」を住民だけでなく、働き、学び、活動するすべての人々にまで広く捉えようとした点、住民投票の投票権を16歳以上に与えることとした点などが挙げられます。
 さて、このたたき台をもとに再びPIに臨むことになります。第1次のPIで回った先へは可能な限り回りたい、回れなかった団体も対象に加えたい、ということで、約1ヵ月間で合計24回もの意見交換会を開催しましたが、開催するだけでも大変なのに、出された意見の集約・整理までこなしたとすれば、すごいことです。
 平成16年2月7日には、第1次のPIのときと同様、第2次PIの仕上げとして「自治基本条例フォーラムPart2」を開催しました。たたき台の内容を単に説明するだけでなく、参加者に飽きられないように、また、理解されやすいように、寸劇までやっています。そして、後半の第2部では分散会形式で意見交換会を実施しました。
 これだけ市民メンバーが情熱を傾けている活動であっても、フォーラムや意見交換会に人を集めるということは本当に大変だったようです。「自治」というテーマは、放っておいても人が集まるというものではなく、まさに、主催者が積極的にインボルブ(巻き込む)していく姿勢で臨まなければならないようですね。
 つくる会発足から1年半たった平成16年3月中旬、ようやく第2次のPIが終了しました。そして、それから6週にわたり毎週土曜日に全体会議が開催され、たたき台を「条例素案」にする作業が続けられました。当初、3月末までという予定を市長に延ばしてもらい5月に提出となったので、何としても再延長は避けたいということから、通常ではあり得ないような強行スケジュールとなりました。
 何回ものPIで出された意見をもとに、たたき台の条文をひとつずつ再検討していきました。その後、細かな字句の整理や添付資料の作成を経て、附帯意見をつけて、ついにつくる会から市長に条例素案が提出されることになりました。平成16年5月30日、前文と33条の条文とからなる自治基本条例素案が市長に提出されました。つくる会発足から1年8ヶ月、584日間に119回の会合、63回の意見交換会を開催しましたので、およそ3日に1回は何らかの集まりを持っていた計算になります。本当に心から敬服させられます。
 さて、条例素案を受け取った行政では、早速条例案にしていくための検討作業をスタートさせました。9月議会に条例案上程を目指すこととなったので、実質3ヶ月弱の期間しかありません。
 市議会でも独自の動きがありました。つくる会の条例素案をもとに議員同士で意見を交わす「自治基本条例議会協議会」が組織され、計4回の会議が開催され、7月23日に「自治基本条例に関する意見について」がまとめられて議長から市長に提出されました。全会派で一致しなかった意見も参考意見として付記されています。
 議会からの意見書を踏まえての修正も加えられ、ついに平成16年9月8日、市議会へ自治基本条例案が上程されました。議員の中には、自治基本条例の制定に肯定的な議員もいる反面、当初から制定に反対の議員、また、つくる会によるPIを中心とした策定方法に異を唱える議員もいたため、市議会での審議の行方はまったく読めない状況だったようです。
 9月15日、総務常任委員会が開かれました。つくる会メンバーや関心を持つ市民、議員らが見守る中、委員会では約4時間にわたり内容の濃い議論がされました。そして、継続審査の動議、修正動議2本が出され、採決の結果、継続審査動議は否決されましたが、修正案の一方が賛否同数、委員長決定というきわどさで可決されました。条例案の内容が修正された上で可決成立したということです。そして10月4日、本会議において討論、採決が行われ、賛成16、反対11で、委員会で可決された修正案が可決成立しました。
 修正されたのは4箇所でしたが、つくる会メンバーとしては、いずれも長い時間をかけて練ってきた重要な箇所だったので、非常に落胆したようです。議員との間でも何回も意見交換会を持ち、そこで出された意見は可能な限り素案に反映しましたし、素案提出後の条例案策定過程でも議会から市長あてに出された要望はそのほとんどが条例案に反映されたにもかかわらず、修正されたことは、彼らとしては「市民・行政・議会三者の信頼関係を損なう行為」だと映ったようです。そして、いろんな意見があったようですが、結果的に、既に記者発表している意見をWEBサイトに掲載することに留め、つくる会として市民への説明責任を果たすという目的からニュースレターを発行し、素案提出からこれまでの事実経過を発信するということにまとまりました。「つくる会は決して市民を代表した団体ではなく、市議会に対立する団体として活動することは好ましくない。そもそもつくる会の任務は条例素案を策定することなんだ」という意見が全体の支持を得た形となって、冷静な対応に落ち着いたということです。なお、市長は、「提案者としては原案を全員で可決していただきたかったが、議会制民主主義における多数決原理の結果は尊重する」というコメントを出しています。

 このような経過を辿って大和市自治基本条例が制定されました。前回紹介した北海道のニセコ町と比べると、条例制定手法が非常に異なります。ニセコ町が「逢坂町長のリーダーシップによる行政の奮闘とそれをバックアップした外部の専門家集団」によって力仕事で制定にまでもっていったのに対し、大和市は愚直に「市民参加」を徹底する形をとりました。
 この手法の違いはおそらく条例の内容に大きな影響を与えたと思います。私も専門的にはよく分かりませんが、地方自治の基本ルールとして定めておくべきことは非常に幅広く、専門家でなければ提案できないようなものもあるようです。それらは、住民主体でたたき台をつくった大和市の条例には盛り込まれていません。そういう意味では、もっぱら住民主体で自治基本条例をつくるというスタイルも完全な手法とは言えず、全面的に支持できない面があります。と言っても、決して住民主体の条例づくりを否定している訳ではなく、専門家の意見も適切に取り入れる必要があるということであって、要するに両方が必要でしょう、ということが言いたいのです。
 また、この二つのケースは、条例案制定までのプロセスは全く異なりますが、議会において簡単に可決されず難産したという点では奇妙に一致しています。これが、この二つの自治体においてたまたまそうだったのか、ともに意欲的な条例案だったがゆえに賛否両論を呼んだのか、それとも、およそ自治基本条例は議会のハードルが高いのか……。その辺はよく分かりません。もっと他の自治体のケースを見ていくと、分かってくるのかも知れませんが。
 少なくとも、自治基本条例の制定にはものすごいエネルギーをかける必要があり、たくさんのエネルギーをかけなければいい条例は作れない、ということは間違いなさそうです。

 ところで、ニセコ町の場合も参考文献がたくさんありましたが、大和市の場合もドキュメント・市民がつくったまちの憲法~大和市自治基本条例ができるまで(ぎょうせい刊)という本が出ており、このレポートでも大いに参考にしています。

2006年10月12日 (木)

自治基本条例を再び取り上げる~ニセコ町

 このブログで今年6月中旬から7月中旬にかけて「自治基本条例」を5回ほど取り上げました。日本で最初の自治基本条例である「ニセコ町まちづくり基本条例」を取り上げ、区切りにしていました。今読み返しても、重要なポイントはかなり網羅しており、あまり付け加えることがないような感じです(出来がよかった?)。その後、「情報共有と自治体改革 ニセコ町からの報告」(片山健也著、公人の友社)、「わたしたちのまちの憲法 ニセコ町の挑戦」(木佐茂男・逢坂誠二編、日本経済評論社)、「町長室日記 逢坂誠二の眼」(逢坂誠二、柏艪舎)といった本などを読み、条例制定の背景や周辺状況が私なりに、より明らかになってきたので、その辺りを書き加えてみようと思います。

 ニセコ町まちづくり基本条例は、繰り返しになりますが、わが国で初めての自治基本条例です。従って、参考になる先進事例はまったくなかったことになります。小さな自治体・ニセコ町の意欲的な取り組みを後押しし、力強く支えたのは「札幌地方自治法研究会」というグループでした。札幌地方自治法研究会は、「自治体職員が行政法や地方自治法について、じっくり学び合う場をつくろう」という目的で、道内の自治体職員が中心となって1988年に設立された自主グループです。その指南役と実質的なリーダーを引き受けたのが北大の木佐茂男氏でした。この研究会の例会にニセコ町職員の逢坂誠二氏片山健也氏も積極的に参加していました。その後、逢坂誠二氏が町役場の係長から現職を破って町長に就任するという快挙を経ながら、ニセコ町は情報公開など地方自治の様々な課題に果敢に挑戦していきます。 「わたしたちのまちの憲法」(前述)にこのように書かれています。

『木佐は研究者として、それ以前から川崎市や逗子市の例などを通じて「自治基本条例」に対する関心を深めていた。そして、ニセコ町で逢坂が進めようとしている住民自治の仕組みづくりと自治基本条例の機能が極めて密接な関係を持つだろうことにも気づいていた。もともと自治の現場とのかかわりを重視することが法学研究者としての木佐の信条でもあり、ニセコ町情報公開条例を札幌地方自治法研究会の田中が専門的支援でリードをした実績も踏まえて、立ち上げたのが「札幌地方自治法・自治基本条例プロジェクト」、つまり「自治プロ」だった。』

 具体的には、1992年1月、札幌地方自治法研究会で木佐氏がメンバーに対して「ニセコ町で町政執行について総合的な条例(すなわち、自治基本条例)を制定する動きがある。ニセコ町をモデルにした自治基本条例についてプロジェクトチームを組んで研究したい」と呼び掛け、結成されたのが「自治基本条例プロジェクト」(略称「自治プロ」)というわけです。

 研究会に参加した有志たちは、このプロジェクトがニセコ町から公式に委託されたものでもなければ、用意された研究費があるわけでもなく、会議出席の交通費はもちろんすべて手弁当で参加することを事前に了解していました。法制の専門的研究を続けてきた彼らには、注目される地方分権改革の流れの中で、やがて重要になると言われていたはずの政策法務、自治体法務が取り残されつつある焦りを感じていました。「自治基本条例の実践的研究」は、こうした忸怩たる思いを解消し、持てる専門性をもろにぶつけられる課題として魅力的だったようです。

「地方自治の重要性が意識される戦後の何回かの節目で、その登場が期待されたが実現できずにきた幻の条例。それが「自治体の憲法」とも呼ばれる自治基本条例であり、それを求めているのが、すでに「情報共有のまち」としての先覚性が注目を浴びつつあるニセコ町である」。(わたしたちのまちの憲法p.74)

 「自治プロ」のメンバーが総力を挙げて取り組んだ結果、1999年秋には「条例骨格素案」が作成され、その後「自治基本条例要綱(ニセコモデル)草案」が取りまとめられました。そして、当時普及し始めたメーリングリストをフル活用して議論を繰り返し、2000年3月に「バージョン4.0」が取りまとめられたところで作業は終了となりました。

 その後は、ニセコ町に検討の舞台が移されます。ニセコ町では、1999年春から条例づくりの庁内検討チームが結成され作業を開始していましたが、「自治プロ」試案をいかに「ニセコ・バージョン」にしていくかという課題に取り組むことになります。その後も自治プロのメンバーは随時アドバイスを与え、ニセコ町側も状況報告をしながら指導を仰ぐという関係が続きます。

 後に町民2名が参加した庁内検討チームのほか、庁内の課長会議管理職会議、そして町民向けの広報広聴検討会議などで精力的な検討が積み重ねられ、さらに議員勉強会も4回開催され、ついに12月議会への議案提出にこぎつけます。ここで確認しておきたいことは2点あります。一つは、条例案作成までのプロセスであり、専門家集団が相当貢献したことと、昨今はやりの「住民の主体的参加」が主軸にはなっていないことです。これらは、特に前者は特異な形だと思われますが、後者についてもわが国初の試みということからすれば当然なのかもしれません。もう一つは、議会説明会を繰り返し開催していることです。こういうことは自治体においては常識なのかもしれませんが、それでも実際の議会ではかなり紛糾したことを考えると、あれだけ説明したのになぜ?という感じがします。

「事前の根回し」の功罪について、様々な意見があることは承知していますが、私は理解を深めて十分な審議をしてもらうためには必要なことだという認識を持っています。ただし、根回しの段階で説得したり取引したりするようなマネをしてはいけませんし、議員の方も十分に掘り下げもせずに安易に納得していては存在価値がありません。疑問や異論があれば説明を受けた場で開陳すべきであり、その場は適当に聞き流しておいて実際の審議になって君子豹変して厳しく追及したり声高に反対するというのはフェアとは言えません。

 まあ、ニセコ町議会の場合は、事前の勉強会や説明の際も賛否いろいろな意見があったようですが、議会の本番でもかなり厳しく批判・否定する意見と積極的に評価・賛成してくれる意見が拮抗し予断を許さない緊張感がありました。結果として、賛成10、反対5で無事可決成立しました。「これが民主主義なのだよ」ということかもしれませんが、様々な努力を尽くした割になかなかハードな議会だったんだなぁというのが率直な感想です。いくら提案側が理想的だ、検討し尽くした、と思っても、世の中にはいろんな考え方や立場があって、決して満場一致で支持して頂けるわけではないという教訓でもありました。 難産の末の条例成立は、逢坂町長と町職員だけでなく、ここまで関わってきた「自治プロ」メンバーの皆さんがとても喜んだわけですが、これがその後の全国での自治基本条例制定につながっていくことを考えると、極めて意義深いことであったと言えると思います。また、このような膨大な努力、作業があるからこそ、最終成果物の条例がとても価値があるのだと思います。

2006年7月13日 (木)

ニセコ町まちづくり基本条例について

 「ニセコ町まちづくり基本条例」の制定経緯を見てみます。日本で最初の自治基本条例であり、前例がまったく無い中で制定されたにもかかわらず、極めてレベルの高い条例です。
 条例制定から遡ること3年以上前のこと、ニセコ町では、まちづくり懇談会、まちづくり町民講座等において、町民から「町長が替わったら、情報共有や住民参加の仕組みもなくなるのか」「どこでどうやって行政にものを言ったらよいのか」等の意見があったそうです。そうだとすると、既に先進的な情報共有や住民参加の取組みが行われていて、有効に機能していたのでしょう。ちなみに、当時の町長は逢坂誠二氏で、町の財政係長からいきなり現職を破って町長となった若くて意欲的な人物でした。
 その後、平成11年以降、札幌地方自治法研究会という組織においてニセコ町規模をイメージした自治基本条例の検討が開始され、平成12年には同研究会で自治基本条例試案が完成しました。この札幌地方自治法研究会という組織の存在が条例の制定に大きく貢献していることが注目されます。コンサルに委託したのではないし、職員だけで頑張ったのでもないし、委員会・審議会形式も採っていません。全国で初めての取組みということでもあったので、研究者のボランタリーな努力が相当つぎ込まれたようです。
 研究会による条例試案を受け取り、職員による検討チームでその条例試案を検討しました。この検討チームには途中から町民も参加します。また、議会で独自に勉強会を開催したり、庁内の管理職会議等でも検討を行いました。さらに、まちづくりを考えるシンポジウムやまちづくり町民講座でもオープンな議論が行われました。やがて、条例案が固まり、町民説明会の開催、パブリックコメントの実施を経て、同年12月に町議会で条例が可決成立しました。このように、町当局内の職員レベル・管理職レベル、議会、町民というように、様々な立場で、オープンな形で検討が積み重ねられているところが、ニセコ町条例の制定プロセスの大きな特徴のように思われます。地味ではありますが、どの自治体でもすぐに真似できないものがありそうです。妥協せずに頑張ったところがエライですし、そのような取組みが実際にできるところに、実はニセコ町のそれまでの積み重ね・素地というものがある、という感じがいたします。
 条例は平成13年4月に施行されましたが、引き続いて、条例のポイント、考え方を整理した「手引書」が作成されました。幅広く町民や関係者に理解され、活用されることを目指している姿勢が伺われます。
 条例には「4年後の見直し」の規定がありました。早速、平成15年から条例の見直し作業に着手します。この作業も、当初と同様、職員による検討チーム、札幌地方自治法研究会、まちづくりシンポジウム、まちづくり町民講座、広報広聴検討会議、議会での検討など、様々な形で検討が行われました。そして、平成17年12月、議員提案の形で「議会関係の規定」が追加されるなどの改正が行われました。いったん作ったら一丁上がり!で終わりではなく、しっかりと生かされ、活かされていたことが読み取れます。
 当初の条例制定のときの談話として、逢坂町長が「この条例では、特別なことをうたっているわけではありません。ニセコ町のこれまでの実践を背景として、当たり前のことを当たり前に考えた結果の条例です」と語っています。さらりとこのように語れるところが、ニセコ町のすごいところ、かもしれません。「当たり前のこと」が、市民・議会・町役場で共有されているんですね。
 さて、この条例を作った町長逢坂誠二氏は、平成17年夏、町長を辞職し、9月の総選挙で衆議院議員に当選しました。冒頭の町民の意見にあるように、町長が替わっても、この条例が活かされているのか、情報共有や住民参加の仕組みが有効に機能しているのでしょうか。どうなんでしょう。興味あるところです。

2006年6月24日 (土)

自治基本条例の制定状況

■全国の制定状況(特徴的な条例、分類)


  自治基本条例は、国の承認・認可、届出などが義務付けられていませんので、全国の制定状況を正確に把握することは難しい面があります。また、近年ブームのように全国で制定されているので、ある時点で誰かが調査してもすぐデータが古くなってしまいます。とは言え、昨今、インターネットの普及により、条例を制定した自治体はまず100%ホームページに掲載しているはずですので、上手に検索を行えば、かなりの割合で「捕捉」が可能ではないでしょうか。
 私が個人的に行った収集作業の結果によると、現在の条例制定都市数は46です。「自治基本条例」と「まちづくり基本条例」をキーワードとする検索により抽出作業を行った上で、捕捉された条例の構成や条文をざっと眺めて、明らかに異質な条例は排除しました。今後、さらに精査・追加調査をすると若干変動(増加)があるかもしれません。
 46都市のうち「県庁所在都市」は意外なことに静岡市ひとつだけです。「政令指定都市」では静岡市と川崎市のふたつだけ。都道府県ではまだ実例がありません。ちなみに、三重県内では四日市市と名張市の2市のみ。そう考えると、未制定の津市がひどく遅れているという状況では、まだありません。でも、46以外に、制定に向けて懸命に取り組んでいる都市がかなりありますから、今後この数字はどんどん増えていくと思います。いずれにしても、必須の条例ですから、一刻も早く策定されるように取り組んでいただきたいものです。
 今後、個々の条例の読み込みをつぶさに行い、特徴的な内容の条例、制定過程がユニークな条例、その他参考となりそうな条例を見つけていくつもりです。
 なお、珍しい例ですが、条例案を作り上げ、議会に上程までしながら、継続審査を経て結局審査魅了・廃案となってしまった都市もあります。実はこの都市、総合計画では非常に高い評価を得ている都市なので、なぜ成立せずに廃案になってしまったのか、研究材料としては非常に興味があります。可能であれば、詳しい事情を調べてみようと思います。ここでは名誉のため、都市名は伏せておきたいと思います。

2006年6月23日 (金)

自治基本条例で何を定めるのか

■自治基本条例に規定すべき内容

 自治基本条例は、法律に基づく条例ではありませんから、何を規定すべきとか、何を規定してはいけないと言ったルールや制約はありません。しかしながら、既に述べてきた定義や意義を踏まえると、自ずとその内容もある範囲に収れんされてきます。
 何度も引用しますが、北海道大学の神原教授の説が非常に参考になります。神原教授が、自治基本条例の枠組と内容を考える際に有効と考える6つの判断軸を紹介します(出典:「自治基本条例の理論と方法」p.60)。内容的にはちょっと難しいのですが、よく読むといずれも非常に重要で不可欠のポイントです。
(1) 総合性の原則(重要な基本制度の項目は最大限網羅する)
(2) 水準性の原則(個別の制度の内容を吟味して高いレベルを確保する)
(3) 具体性の原則(理念を具現する制度、制度を動かす原則を具体的に規定する)
(4) 相乗性の原則(制度の相互関係を明確にして相乗効果を発揮させる)
(5) 関連性の原則(基本条例に基づく関連条例・制度の整備を明文化する)
(6) 最高性の原則(最高規範性および市民投票による承認を規定する)

 神原教授が、札幌市を想定した自治基本条例の案を個人的に作成しています。前述の著書では「その内容は極力普遍性を重んじて作成していますので、行政区などの政令指定都市に特有の条項を除けば、ほかの自治体においてもモデルとして活用していただくことができます」と述べておられます。その「札幌市自治条例の構想私案」の構成を紹介します。
前文
 第1章 総則            目的、理念
度と原則(第2章-第8章)
  第2章 情報の公開と共有    
知る権利、説明責任、個人情報保護
 第3章 市民参加の市政の推進 
市民参加条例、市民投票制度
 第4章 多様な主体の協力
 第5章 行政の政策活動の原則 
総合計画等、財政運営等、法務体制、政策評価
  第6章 行政組織と職員政策  
意志決定、組織の編成、職員政策、市民委員会、出資団体
 第7章 議会と議員活動の原
則 情報公開、市民参加、議会と市長等の関係、議会基本条例
 第8章 公正と信頼の確保    行政手続、外部監査、オンブズパーソン、競争入札、政治倫理条例、職員倫理条例
  第9章 責務             市民、市長、議員、職員
 第10章 最高規範性        見直しの継続、市民投票手続

 次に、日本で最初の自治基本条例である「ニセコ町まちづくり基本条例」を見てみます。その構成は次の通りです。

 前文
○目的
○まちづくりの基本原則    (情報共有の原則、行政の説明責任、住民参加の原則など)
○情報共有の推進
○まちづくりへの参加の推進
○コミュニティ
○町の役割と責務
○まちづくりの協働過程
○財政
○評価
○町民投票制度
○連携
○条例制定等の手続
○まちづくり基本条例の位置付け等
○この条例の検討及び見直し

 ニセコ町以降、多くの市町村で自治基本条例が制定されてきていますから、それらをつぶさに調べれば、大半の条例において規定されているコアの部分と、自治体ごとの独自性を発揮した、個性あるオリジナル部分とが浮き彫りになってくるかと思います。今後、少し時間を掛けてその辺りの分析を行ってみたいと思います。

 最後に、「自治基本条例に規定すべき内容」について、現時点で気づいた重要なポイントを幾つか上げておきます。

(1) 政策、施策は規定しない
 制度だけでは無味乾燥だから?、主要な政策くらいは盛り込みたくなりますが、それは我慢しなければなりません。「政策条例」と「運営条例」を明確に区別する必要があります。
 この点を押さえると、「まちづくり条例」の類と明確に区別することが容易になります(自治基本条例は自治体によっては「まちづくり基本条例」といった名称を用いる場合があり、「まちづくり条例」と混同する恐れがあるわけです)。まちづくりに限りませんが、具体的な政策が書かれている条例は自治基本条例ではないということを、改めて念押ししておきます。

(2) 議会・議員について規定するか否か

 首長が条例案を作成して議会に提案することから、議会マターについては盛り込みにくいとか、議会に気兼ね・遠慮してしまうため、議会・議員について規定しない例が多いようです。本来、議会で考えるべきことだ、というスジ論を貫くケースや、議会サイドが積極的ではないケースなどもあるようですが。
 困難な理由はごもっともな場合もあるでしょうが、目指すべき姿としては、議会・議員を含む「総合型」でなければ、優れた自治基本条例とは言えないと思います。

(3) 一度に、あるいは短期間に、理想的な自治基本条例は作れない
 自治基本条例は最高規範です。多くの制度をすべて自治基本条例に細かく書くことは困難ですし、ボリュームが大きくなり過ぎます。自治基本条例を頂点として、複数の個別条例群による条例体系という形にならざるを得ないと思われます。具体的に言えば、情報公開条例、個人情報保護条例、住民投票条例、政策評価条例、行政手続き条例、政治倫理条例、職員倫理条例などなど、かなりたくさんあるようです。
 基本条例を先に作って、それに基づいて個別条例を順次作るか。主な個別条例を先行的に作って、ある程度の段階で基本条例を作るか。一概にどちらがよいとも言えません。明らかに言えることは、これらの条例群を一度に、あるいは短期間に作ることはほとんど不可能だということ。また、自治基本条例を作るだけでは、単独では実質的に機能しないだろうということ。
 例えば、合併後の「津市」を見てみると、行政手続条例、情報公開条例、個人情報保護条例はありますが、市民参加推進、住民投票、政策評価、職員倫理等に関する条例はありません。議会に関する条例もありません。進んでいる市では、外部監査、オンブズパーソン、内部告発、市民委員会の設置・運営などに関する様々な条例が制定されています。いずれも時代の要請を背景として、市民の働き掛けや首長のリーダーシップで取り組んだものと思われます。津市は遅れています。制定が遅れているというより、問題意識や意欲の高まりが遅れているような気がするので、もっと深刻です。
 話がやや拡散してしまいましたが、要するに、流行を追って自治基本条例だけをポコッと作れるものではなく、基本条例体系を構築していこうとすると、首長も職員も議会も市民も、相当の気合いと熱意を持って何年もかけて取り組まなければならない、ということです。やる気だけではうまく進まないので、周到な計画や高度な戦略も当然、必要です。このような取組み体制を立ち上げるだけで、下手をすると1年2年はすぐ経ってしまうでしょうね。「じっくり取り組みたい」なんて言っているようでは、やる気がないかサボっているのと同じです。

(4) 作る体制と過程が重要。単なる市民参加ではダメ
 地方自治の基本的な理念、制度、原則を総合的・体系的にまとめるのですから、首長、職員、議会、市民の4者がしっかりと参加し、協力し合って作っていかなければなりません。作る過程そのものにも重要な意味があり、主体的に参加することで、手間は掛かりますが、理解を深めたり、やる気を育てたり、お互いの関係を構築したりして、施行されてからスムーズに動くことにつながっていきます。言うまでもありませんが、コンサル任せで小綺麗な案を作ってもらうなんて論外です(百害あって一利なし)。
 一昔前であれば、「市民参加」というだけで誉められましたが、今や単に「市民が参加している」だけではダメです。市民に何を担ってもらうのか、どうやって参加市民を選ぶのか、活動成果がどう活かされるのかなど、具体的で納得の行く仕組みと形にしなければなりません。そもそも、行政が一方的に決めた「市民参加」ではなく、最初の仕組みづくりの段階から市民が参加したり、市民の方が主体的に活動して行政は補助に回るケースも出てきています。
 もっとも、「市民参加」自体、一朝一夕には実現しません。市民の方も人材を増やし、意識を育て、技能を磨き、経験を積まなければ、絵に描いた餅で終わります。市民参加の超先進市である三鷹市も、長年の活動実績がベースになっているからこそ今の素晴らしい市民参加の姿があるわけです。津市の場合は、最初の一歩から、に近くて、道は遙かに遠いかもしれませんよ。

2006年6月22日 (木)

自治基本条例の意義

■自治基本条例の意義


 なぜ、「自治基本条例」を制定する必要があるのでしょう。どういう意義があるのでしょう。

 わが国で初めての「自治基本条例」は、北海道ニセコ町の「ニセコ町まちづくり基本条例」だと言われていますが、ニセコ町職員の片山健也さんが「情報共有と自治体改革 ニセコ町からの報告」というブックレット(講演録)の中で次のように語っています。

「住民と行政の関係、住民の皆さんが培ってきた民主主義の仕組みやその枠組自体が、首長の交代などで白紙になって良いのか。首長が変わる度に住民と行政の間隔とか、情報の流れが変わっていいのか。そもそも住民自治の視点からいうと最低限のルールは決めておく必要があるのではないか。との意見が住民や職員の中に散見されるようになり、それでは、まちづくりの基本となる大枠を決めておこうということになりました。」

 自治基本条例が必要であると言われている背景として、次のような点が挙げられます(これは法政大学非常勤講師の金子匡良氏の説です)。

(1) 2000年(平成12年)に地方分権一括法が制定され、「機関委任事務」が廃止されるとともに、自治事務や条例制定権が拡大された。このことは、「下請けとしての地方自治」から「住民への地方自治」への転換となった。このため、自治の基本理念や基本原則を明文化することが必要になった。
(2) 住民参加意識が高まり、情報公開・パブリックコメント・住民投票などによる住民参加が活発になってきた。このため、地方行政への住民参加の方法を明文化することが必要になった。
(3) 全国各地でリーダーシップのある無党派首長が次々と誕生し、個性的なまちづくりが推進されてきている。このような動きを受けて、まちづくりの理念や原則を明文化することが必要になった。
(4) よく「失われた10年」と言うが、様々な形で国への不信感が高まるとともに、中央集権的行政がほとんど行き詰まりを見せ、地方自治再生への期待が高まってきている。このため、地方自治再生の基本方針を明文化することが必要になった。

 北海道大学の神原勝教授は、自治体をジャンボジェット機に例え、自治基本条例を操縦するための計器に例えています。そして、首長は操縦士というわけですね。
 この例えは、非常にユニークで、しかも的を射ていると思います。神原教授は札幌市を念頭に置いてジャンボジェット機と言っていますから、津市であればもう少し小さい、100人乗りくらいの飛行機でしょうか。それでも勘と目視だけで飛行機を操縦するのはほとんど不可能です。それとおんなじで、市長一人では能力的にも時間的にも、市の行政を動かし、様々な問題・課題を解決していくことは不可能です。当然、職員を効率よく使う必要があるし、議会、市民、関係団体、関係業界、国・県との連携協力は不可欠だし、講じる対策は条例・予算・事業・計画・行事など多種多彩にあります。こんな目が回りそうな仕事においてどうやって職責を果たしていくのでしょうか。そのための仕組み・ルールの役割を果たす中心的存在が「自治基本条例」だというわけですね。神原教授の文章を紹介します。(「自治基本条例の理論と方法」p.52-53)
「この計器に相当するのが、情報公開、市民参加、総合計画、政策評価、政策法務、財務会計などの自治体運営の制度・仕組みです。これらは市長自身、そして職員や議員が仕事をするときの基本ルールですから、これらの制度がきちんと作動しているかどうかを常に点検することで、市政を安全飛行させ、政策のレベルを高めることができるわけです。自治基本条例を制定して、きちんと仕組みを整えて、それを正常に作動させる。それなくして市長は市民に対して責任を負うことはできません。
 また、自治基本条例には、基幹的な制度がズラリと並ぶ一覧表でもありますから、「制度の情報公開」としての意義ももっています。これによって、市民、職員、市長、議員のみなさんがそれらの制度を共有することになれば、有効感のある、求心力のある市政を展開することができるようになると思います。」

  以上のようなことを踏まえて、私なりに自治基本条例の意義を整理してみました。

○地方分権の本格化、地域独自のまちづくりの必要性、住民参加意識の高まりを受け、地方自治やまちづくりの基本理念・基本原則の明確化、住民参加の方法の明確化等を図ること

○自立した自治体運営のために必要な基本的制度・仕組みである情報公開、市民参加、総合計画、政策評価などを適切に運営させるとともに、その状況を公開し、市民・議員・市長・職員が共有すること

2006年6月16日 (金)

自治基本条例とは…

 最近、多くの市町村で「自治基本条例」(または「まちづくり基本条例」)が制定されています。これは、自主的で自律的な自治体運営を行っていく上でとても重要なものです。私も最初はピンと来ませんでした。何となく重要そうなものだとは思いましたが、「あればベターかもしれないが、ないと困るのだろうか……」といった程度の認識でした。よくよく勉強してみると、「これはなくてはならないものだし、是非ともいいものを作らなければならない」という認識に変わっていきました。市民も議員も市長も職員も誰もが、よ~く理解した上で、一緒に作って、一緒に運営していくべきものだと思います。ぜひ一緒に考えていただきたいと思います。
 そういう思いを込めて、何回かに分けてこの自治基本条例を取り上げていきたいと思います。(注:市町村によっては「まちづくり基本条例」あるいはその他の名称を用いている例もありますが、ここでは便宜上「自治基本条例」で統一することにいたします。)

■自治基本条例の定義
 まず、「自治基本条例」とは、そもそも何でしょうか。多くの学者がそれぞれの定義を行っていますし、多くの市町村が定義づけを試みています。法律に基づくものではないために、権威ある明確な定義はないようです。しかも、「自治基本条例」自体がまだ発展途上なので、今後変わっていく可能性すらあります。そう言った状況を承知の上で、取りあえず、私なりに次のように定義づけました。

『自治体を運営するために必要な理念、制度、原則を

                       総合的、体系的に整備した最高の条例』

  初めての方は、これだけ読んでもピンとこないかもしれませんが、ここではあえて解説を付け加えません。あとでまた立ち返って頂いて、この定義で過不足無く表現しているか、確認して頂ければ、と思います。