LRTとまちづくり
LRTとは、Light Rail Transit(ライト・レール・トランジット)の略です。いわゆる「路面電車」「ちんちん電車」と本質的には違いませんが、あえて言えば、「路面電車のシステム全体を近代化・ハイテク化した新しい都市交通システム」というようなことになるようです(今のところ、明確な定義はないとも聞いています)。もう少し路面電車との違いを具体的に言うと、車両が高性能で長編成、騒音・振動が少ない、低床で乗り降りが楽、スピードが速い、定時性がある、専用軌道を走る(一般の交通と混在しない)、景観上優れており都市のランドマークとなる、といったところです。
かつて路面電車は多くの都市にありましたが、古くさくて、遅くて、自動車の方が便利だ、自動車交通の邪魔だ、ということで、モータリゼーションの進展に伴って次々と廃止されていきました。現在は、17都市で19事業者が約205kmの路線を運営しているだけになっています。
しかしながら、便利だった自動車交通の方も必ずしもいいことずくめではなくて、環境に悪い、渋滞する、維持費にお金が掛かる、事故の危険性がある、年を取って運転するのがしんどくなってきた等々の理由から、「公共交通」を見直す気運が高まってきています。地域公共交通の代表格は「バス」ですが、「路面電車」を見直そう、次世代型路面電車である「LRT」を整備しようという動きが全国各地で盛んになってきています。そして、LRTは単なる交通手段の一つとしてでなく、「交通需要管理政策」の一環として、また、街づくりと一体となった位置づけで考えられています。代表的な参考事例としては、フランスのストラスブール、ドイツのフライブルクなどが挙げられます。これらの例では、バスとLRTが平面的に楽に乗り換えられて、一体的に使えるようなネットワークとなっていたり、パークアンドライドと言って、郊外の駐車場で車からLRTに乗り換えて都心に入ってこれるようになっており、中心部には一定の商業エリアが車を規制した「トランジットモール」という快適な歩行者空間として整備されています。このようなLRTが、1981年以降、世界各国では100箇所以上も新規開業しているというから驚きです。日本では、富山市で「富山ライトレール」が平成18年春に開業したものが、初めてのLRTとして脚光を浴びました。ただし、富山レイトレールも、富山駅近くの一部区間以外は富山港線というJRの路線跡を転用したものなので、正真正銘の新規開業とは言い難い面もあります。とは言え、富山駅の北側に延びる富山ライトレールを駅南側の市電とつなげる計画になっているので、それが実現すると素晴らしいネットワークができあがります。
http://www.t-lr.co.jp/
その他、堺市や宇都宮市などで具体的な計画が進められていますが、新規の鉄道敷設となると、なかなか簡単にはいかないようです。
では、LRTのどこがいいのか、主なポイントを挙げてみます。
○かなりたくさんの乗客を高速で運べる
→車体は45mもあり、連結も可能。電車優先信号を導入すれば、高速で定時走行が可能。
→本数を増やせば「待たずに乗れる」
○乗り降りが容易
→超低床車が開発されており、路上から乗れる(駅の階段を上り下りする必要なし)。
○建設コストが安い
→海外の事例では1km当たり10~20億円で整備されている(モノレールだと100億円以上)。
○街なかの環境改善につながる
→中心市街地が活性化する(海外の事例で実証済み)。
→まちのランドマークや観光資源になる。
○街なかに手軽に頻繁に出かけられる
→学生、お年寄り(今まで諦めていた人、遠慮していた人)などの足として最適。
もちろん、いいことばかりの夢物語ではありません(それなら全国各地で続々と整備されているはず)。モノレールに比べて安いと言っても、総額では100億円以上の巨額の公共事業になりますから、その財源確保は極めて難しいのが現実です。しかも、バスのように路線の新設・廃止を柔軟に行うわけにいきませんから、乗客数が増えず採算が赤字になった場合は大変です。路線が網の目のように張り巡らされていれば、いろんなところに行く時に使えるので利便性は高まりますが、一方建設コストがかさみますから採算性確保が困難になります。
従って、LRTだけを取り出して、その建設の是非を議論することは適当ではなく、鉄道やバス等を含めた「地域公共交通」全体でとらえ、各モードの連結と効率よい役割分担ができないかを検討すべきだと思います。その中でLRTを整備することが十分に効果的だと判断されれば、GOサインを出すべきです。平成19年、「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律」が制定されましたので、このような取り組みが法的にも裏づけられました。ただし、この法律も「地域公共交通」の世界だけであれこれ考え取り組む枠組みになっているので、それでは有効な解決策は出てきにくいだろうと思います。そうではなくて、都市政策(都市構造をどう変えていくか)、住宅政策(住宅立地をどのように誘導していくか)、福祉政策(弱者の移動容易性の確保、施設の配置)、観光政策(訪問客、交流人口にとっての魅力として仕立てる)など、様々な政策分野を総動員して、いわゆる「まちづくり」を進めていく中に「地域公共交通」を戦略的に組み込んでいくべきだと思います。そういう「総合行政」が、これからの地方分権時代の自治体には強く求められているのだと思います。
さて、最後に津市においてLRTが導入できないかということについて考えてみたいと思います。津市は、合併して山間部も有する広い自治体となりましたが、ここでは旧津市に絞って考えてみます。旧津市の地勢は広大な平野部を有し、市街地も低密度に広く拡がっています。決して豊富とは言えない都市機能が薄く広く分布しています。公共交通が成り立つには不利な条件と言わざるを得ません。その中で多少なりとも事業採算性が成り立つ可能性のある要素を拾い出してみます。
市街地は、「津駅」と「津新町駅」を二大拠点としてその周辺に都市機能が集積しており、両駅の間にだらだらと市街地(都市機能)が連たんしています。市街地の周辺の拠点としては、北部の三重大学、北西部の「三重県総合文化センター」、南東部の「津なぎさまち」などが挙げられます。三重県総合文化センターの周辺は住宅地が拡がっています。津なぎさまちは、セントレアへの交通アクセスとしての文字通り交通拠点ではありますが、シンボリックな拠点性を有するとは言え、周辺は低密度なややくたびれた市街地であり、半分は海ですから、集客力はあまり高くありません。これらの状況認識を踏まえ、LRTの路線を考えるとすれば、三重県総合文化センターから津駅、津なぎさまちから津センターパレスまでをそれぞれ結んだ上で、津駅とセンターパレスの間は、複数の路線(例えば、①津駅西口から南下して津新町まで、②津駅東口から国道23号線に沿って南下してセンターパレスまで、③同じく津サティを経由してバイパスを南下してフェニックス通りまで)を並行して引いて環状線にすることが考えられます。特殊文字を使って表現してみると、「Φ」のような感じです。なお、百五経済研究所が発行している「HRI REPORT」の2007年5月号に「21世紀の公共交通~LRTを活用したまちなか再生と循環型社会の創造~」という調査レポート(地域調査部の梶本健太郎氏執筆)が掲載されており、そこでは、三重総合文化センターと津なぎさまちを結ぶLRTの路線が提案されています(経路は津駅西口、三重県庁西側、ビストロピアット前交差点、中央公民館、センターパレス、フェニックス通り)。何だか我がアイデアと酷似しているみたいですが、実は本稿を書く前にこの調査レポートを読んでいるので、当方が「後出し」である点を正直に告白しておきます。
さて、大事なことはLRTの路線新設だけの問題にとどめるべきではないということです。まちづくり全体の中に主軸として位置づけ、戦略的な取り組みをしていってはどうか、という提案なんですが、前述のLRT路線網を整備するとともに、総文、なぎさまち、津駅、センターパレス(三重会館)、津新町駅を乗換拠点駅として、放射状に各方面に伸びるバス路線とつなげます。様々な公共施設や商業サービス施設、そして共同住宅をLRTの駅の直近に配置し、これら施設の利用者がLRTを利用しやすくします。便利だと感じれば利用者は増えますし、利用者が増えれば沿線への施設立地が進みます。相乗効果がでるようになれば、LRTの経営も軌道に乗るでしょう。LRT+バス路線+鉄道(JR、近鉄)のネットワーク上を人やモノが流れる動脈となり、それを座標軸とした都市構造、土地利用が実現していけば、それこそ「持続可能な都市」(サステイナブル・シティ)のあるべき姿と言えるかもしれません。そのための初期コストを、仮にそれが多額であっても、頑張って投資することができれば、この構想の実現も決して夢物語ではありません。大事なことは、このような壮大な計画を真剣に検討し、責任を持って策定し、その実現に向けて官民が一体となって取り組むことです。それを行う主体は、行政(首長)であり、議会であり、市民であり、産業界です。国や県が指示・命令をしてくれることはありません。アドバイスもあまり期待できないでしょう。自治体が市民・事業者と連帯責任・連携協力によって、自己責任のもと、自ら決断し、自らの力で実行するしかないのです。
実現可能性の低い、単なる空想だと思わないで下さい。富山市が目指し、取り組んでいるまちづくりは、かなり近いものです。現にLRTや市電を持っている富山市の方がかなり有利かもしれません。人口や産業の集積も大きいでしょう。だからといって、津市がまったく参考に出来ない、学べないということはありません。津市は津市なりに、津市レベルでやればいいのです。空想や理想論にとどまっていては進歩がありませんから、是非リアリティを持って真剣に研究してみたいものです。趣旨にご賛同頂ける方が現れるといいのですが。


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